鉄道に生きる

中溝 祐美 大阪電気工事事務所 工事課 通信担当

電気設備の安全な稼働と品質の向上を追求し、常にチャレンジを続ける

デジタル列車無線の使用開始にあたっては、音声通話の試験等を徹底して行ったという。

 電車通学をしていた高校時代、正確な列車ダイヤに興味を持ち、駅や線路で働く人たちの姿をいつも見ていたという中溝。今では、その鉄道会社の若手リーダーとして、安全で快適な列車運行を支える電気設備の設計・工事を担う。

鉄道の仕事の魅力を胸に刻む

図面通りに工事が進んでいるか、予算は適切かなど、全体の流れを管理するとともに、見直しが必要な箇所を見つけることで一層の品質向上に繋げる。

 中溝の入社は2005(平成17)年。最初の配属先である神戸支社神戸電気区では、みどりの窓口で係員が操作するマルス端末や指令所と列車を結ぶ無線設備などの検査・維持管理にあたっていた。

 転機が訪れたのは、現在の大阪電気工事事務所へ異動になった入社3年目のこと。これまでの設備のメンテナンスから工事の設計や管理に担当業務が変更になる。そして、いきなり、当時地上駅だった姫路駅を高架化するという大きなプロジェクトのメンバーに抜擢された。中溝は、それまで長い歳月をかけて進められてきた工事の仕上げとなる播但線および姫新線の線路の高架化を担当。周りはベテランの技術者ばかり、しかも女性は自分一人という環境の中で、工事最終日の作業が安全に滞りなく進むよう、準備に万全を尽くしたという。「右も左も分からない私をフォローしてくださったのは、経験豊富な先輩の技術者の方たち。当日、一番列車が高架上を走る姿を見た時は、感無量でした」と振り返る。同時に、福知山線列車事故が発生した年に入社した社員として、鉄道会社で働くことの責任の重さをあらためて実感したという中溝。その思いは今も、技術者として歩む日々を支える。

積み重ねた経験が成長の礎に

工事の安全性を高めるための「基準」を網羅した冊子。中溝自身も指針として活用する。

 その後も、新たな領域へのチャレンジは続く。JR西日本が初めて導入するデジタル列車無線の設計・工事の担当もその1つだ。指令員と乗務員との通話手段である列車無線の大規模な更新。デジタル化という誰も経験したことがない切替工事のため、まずは設備のあり方から検討を始め、設備全体の構成や細かな動作の洗い出し、導入に向けた規程類の整備、さらに工事予算の確保まで、1つ1つ手探りで進めていったそうだ。「分からないことだらけで業務が進まず、苦しかった」という当時。一方で、「立ち上げから携わることができ、通信設備の設計に必要な考え方、工事を行う上で全体を俯瞰して見ることの大切さを学びました」と成果を語る。2010(平成22)年からスタートしたデジタル列車無線の導入は、JR宝塚線を皮切りに現在も順次切り替えが進み、列車の安全安定輸送に繋げている。

 こうした工事を行う際には、安全や施工品質を確保するための基準が必要となる。2014(平成26)年、技術基準課に異動になった中溝は、文字通り「技術の基準をつくる」業務に取り組むことになった。役立ったのは、それまで担当した工事で培った経験。かつて、自分自身が現場で注意を受けた点、気がかりだった点などは全て盛り込んだという。同時に意識したのは、先輩たちの技術やノウハウを反映すること。ベテラン技術者を訪ねて聞き取りをし、教えを請いながら作り上げた『電気設備設計施工標準』の分厚いファイルは、工事に携わる人たちのスタンダードになっている。

受け継がれる伝統と技術のバトン

会議では、ルール通りに設備が設計されているかどうかをメンバー全員で確認する。

 現在、中溝は北陸新幹線敦賀延伸プロジェクトのメンバーとして、新幹線を走らせるための支障移転工事、切替工事などの設計を担当する。2022年度末の開業を見据え、未来の線路をイメージしながら図面を引く中で心掛けているのは、常に現場を把握する姿勢だ。疑問になることがあれば現場に足を運び、制服に着替え線路を歩く。工事の進捗とともに変化する現場の状況をつかみ、作業員の安全性を確保するとともに、新たな気づきを図面に反映するためだ。「新幹線を利用されるお客様にとって、北陸の旅が良い思い出となり、地域の活性化に繋げられるよう、開業までの限られた時間の中でベストを尽くします」と熱く思いを語る。

 中溝は今、自身の成長を支えてくれた先輩たちの技術を、次の世代へと広げることを課題にしている。講師として関わるさまざまな研修においても、理論を理解し、実践に活きる知識が身に付くよう説明にも工夫を凝らす。新たな道を果敢に切り拓いてきた若きリーダーは、途切れることなく技術のバトンを手渡していく。

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