旅の味めぐり 駅弁

あわびめし

◎北陸新幹線・北陸本線/金沢駅

日本海に向かって能登半島が突き出し、
長い海岸線を持つ石川県。水揚げされる魚種の数も多く、四季折々、豊かな海の恵みが地域の食を彩る。
野趣に富んだ能登名物、天然あわびの煮汁と
地元の調味料を使って炊き込む「あわびめし」は、
磯の香りと滋味にあふれる郷土自慢の弁当だ。

旨み、香り、食感を楽しむあわび尽くしの名物弁当。

能登の海から届く荒磯の恵み

長町武家屋敷跡(写真提供:金沢市)

 南北に細長く、地理的変化に富んだ石川県は、肥沃な平野と潤沢な水に恵まれた米どころ加賀、三方を日本海に囲まれ漁港が集中する能登の大きく2つの地域に区分され、風土に根ざした独自の食文化が築かれている。とりわけ、石川県沖の日本海は、暖流と寒流が交わる海の幸の宝庫。季節ごとに漁獲される多種多様な魚介類は、城下町金沢の食文化にも影響を与え、新鮮な素材を巧みに使った郷土の味を生み出してきた。

 北陸新幹線と北陸本線、IRいしかわ鉄道線が乗り入れる北陸の玄関口金沢駅。多くの観光客で賑わう駅構内のショッピングモール「金沢百番街」では、能登の海から届く新鮮な魚介を使った炊き込みごはんが人気を呼んでいる。手がけているのは、海産物専門店「鰤のたたき本舗 逸味 潮屋」。のど黒やさざえなど、地元ならではの素材を活かして炊き上げる「御魚ごはん」シリーズの中で、店の名物になっているのが能登産のあわびを使った「あわびめし」だ。

 あわびは、潮の流れのよい岩礁域に生息し、ワカメやモズクなどの海藻を食べて育つ。県内の主な産地は輪島市や加賀市。特に輪島港の沖合50kmにある舳倉島[へぐらじま]付近は、あわびの好漁場として名高く、刺し網漁などのほか、7月〜9月にかけては海女の素潜り漁によって天然あわびが漁獲される。日本海の荒波に揉まれたあわびは、肉厚で身が引き締まり、歯ごたえや甘み、旨みも格別という。伝統の海女漁によって水揚げされた能登・輪島のあわびは、鮮度を誇る地元特産品として、「輪島海女採り」のタグを付けて出荷されている。

手づくりにこだわる駅限定の味わい

 「あわびめし」は、潮屋で販売されている「能登むしあわび」を作る際に出る煮汁を使った炊き込みごはんだ。あわびの旨みがしみ出した煮汁に加えるのは、能登地方に古くから伝わる魚醤[ぎょしょう]「いしる」をはじめ、豊潤な香りが特徴の金沢・大野の丸大豆醤油、加賀の純米酒といったこだわりの調味料。米はもちろん、石川県産のこしひかり(山里清流米)を使う。味わいの奥深さを追求し、だしの出る干し小エビや油揚げ、シメジなどの具材も加えて店内奥の厨房に備えた釜で炊いている。香り高いごはんの上に、柔らかく蒸したあわびのスライスを贅沢にのせれば、百番街店限定の手づくり弁当の出来上がりだ。

 もともと、「あわびめし」は駅弁として開発されたものではない。石川の新鮮な魚介を独自の製法で加工・販売する潮屋が全国の物産展に出店する中で、地元ならではの食材や調味料を使い、どこにもない味を提供したいという思いから生まれたものだという。2004(平成16)年の発売当初は、物産展だけで販売していたが、炊きたてを店頭に置くようになってから、厨房から流れるあわびの香りに誘われて買い求める客が増え、新幹線や特急列車の旅の友として、また地元の人にも親しまれる味となって広がったそうだ。今では、多い時には1日200食を販売する金沢駅の名物弁当。保温をすると風味が落ちるため、炊き上がったごはんはすぐに容器に詰め、がんもどきの煮物、くるみの佃煮とともに店頭に並べられる。全て無添加の手づくりの味にできたての温もりを添えて、石川の風土が育んだ「逸味」を届けている。

土地の文化を感じながら味わいたい北陸の旅の味

利家御膳〔大友楼〕

加賀藩前田家の歴代藩主が宴席で食していた献立を現代風にアレンジ。郷土料理の治部煮や加賀れんこんのはさみ揚げなど、老舗料亭が今に伝える伝統の味。
〔価格:1,050円(税込)〕

ぶりかまめし 吹雪〔冬期限定/源〕

一匹から2つしか取れない希少なぶりの「かま」をじっくり煮込んだ豪快な冬の味。富山米の酢飯、その上に敷き詰められた瑞々しいかぶらの食感が好相性の逸品。
〔価格:1,200円(税込)〕

〔価格は全て2017年12月20日現在〕

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