鉄道に生きる

竹下 純弘 米子支社 浜田鉄道部 浜田列車支部 運転士

安全への感度と技術を磨き、運転士としての使命を果たす

運転中は乗降ミラーやサイドミラーを活用してお客様の動きをチェックし、安全確認に努める。

 山陰本線は、京都駅から山口県の幡生[はたぶ]駅を結ぶ全長673.8kmの日本最長の在来線。竹下は、このうち出雲市〜益田駅間の海沿いを走る区間に乗務する。アップダウンが大きく、カーブも多い特徴ある路線だ。お客様の安全はもとより、乗り心地にも配慮した運転を追求し、運転士としての技術と経験を積み重ねる。

運転士をめざし、一心に励む

気動車においては、燃料油量の残量チェックは出発前の重要な確認事項の一つ。

 幼少期から山陰本線を走る列車に親しみ、運転士に憧れていたという竹下。列車通学をしていた高校生の頃には、憧れの仕事が目標となり、1998(平成10)年運転士をめざしてJR西日本に入社した。竹下は、まず新神戸駅での駅業務から鉄道マンとしてスタートする。その1年後には車掌となって天王寺車掌区に勤務。さらに米子車掌区において経験を積んだ後、2002(平成14)年7月に念願の運転士となり、浜田鉄道部浜田列車支部に配属され現在に至る。

 「運転士になるには動力車操縦者免許が必要です。社員研修センターで運転士科の講習を受け、その後は現地で指導操縦者のもと、実車での訓練を経て国家試験に臨みました」。運転士見習いの時は、米子〜長門市駅間に乗務していたという竹下。「西に行けば行くほど線路が複雑で、土地勘もなかったために線路の曲線や勾配をなかなか覚えることができませんでした」と、苦労した当時を振り返る。“乗って覚える”ことをひたすら繰り返すうち、点で覚えていたものが線になり、少しずつ線区の景色が繋がっていったそうだ。見習い期間を終え、独り立ちした日に感じた重責を、竹下は今も心に留める。

地道な努力でお客様の安全を守る

乗務前の点呼では、乗務予定の列車や作業に係る必要な確認を行う。

 現在、竹下が担当しているのは、主に普通列車や快速「アクアライナー」、また特急「スーパーおき」、「スーパーまつかぜ」にも乗務する。普通列車は車内収受型のワンマン運転のため、運賃の受け取りも大切な仕事だ。心がけているのは、安全第一にお客様を目的地まで運ぶこと。そのため、乗務前から体調を整え、天候や沿線情報を入手してその日一日の運転を組み立てているという。「運転士の仕事は安全への感度を高めることが大切です。例えば、山沿いの区間は落石や動物にも注意しなければならない。事前にリスクを想定しておけば、的確な対処に繋がります」。

 安全への意識は、自身の運転におけるこだわりにも表れる。乗務区間はご高齢のお客様が多いため、転倒防止対策は日常的な課題だ。竹下は、速度向上のタイミングやブレーキ扱いに配慮し、衝動の少ない乗り心地で安全を守る。「普通車のキハ120形は車体が軽く、ブレーキ操作の影響で衝動が生じてしまいます。降車時には運賃箱のある前方に移動されることもあり、ブレーキ扱いには細心の注意を払っています」。同車種であっても、ブレーキの効き具合などは1両1両でクセが違う。竹下は乗車した車両は番号を控え、気になった点を書き留めておくなど、安全輸送への地道な努力を続けている。

“実践に基づくアドバイスで技術を繋ぐ

ワンマン列車では運賃収受も担う。「ご乗車ありがとうございます」とお声をかける。

 竹下は、京都、大阪駅と下関駅を結び、山陽・山陰両線を走る寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風[みずかぜ]」にも乗務する。「瑞風は当社のフラッグシップ列車です。運転士としても、地域の活性化のためにも、担当したいと手を挙げました」。そんな竹下の思いが実った心温まるエピソードがある。運行開始前の試運転で浜田〜西浜田駅間を低速走行していた際、沿線の小学校の児童が校庭で手を振り、見送ってくれたのだという。「上司にそのことを報告したところ、地域ならではのおもてなしに繋がるのではと、小学校通過時には徐行運転することになったのです」。営業列車に乗務した日、“ようこそ”と手を振る子どもたちの姿に感動したそうだ。「地域が一体となってお客様を迎えることができた。乗客の皆様も大変喜ばれたと聞き、運転士冥利に尽きる思いでした」。

 指導操縦者として運転士の育成にも携わっている竹下。後輩たちには速度やブレーキの数字だけではなく、自身の経験に基づくアドバイスを心がけたいと語る。「目には見えない気づきを伝えることが、技術の継承に繋がります」。培われた技術は、運転士としての誇りとともに次世代へと受け継がれていく。

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