エッセイ 出会いの旅

長谷川義史

1961年大阪府藤井寺市生まれ。『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版)で絵本デビュー。『いいからいいから』(絵本館)、『へいわってすてきだね』(ブロンズ新社)、『おならまんざい』(小学館)など、ユーモラスでおおらかな絵本が大人にも子どもにも大ウケ。『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で第34回講談社出版文化賞絵本賞、『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で第13回日本絵本賞と第57回小学館児童出版文化賞、『あめだま』(ブロンズ新社)で第24回日本絵本賞翻訳絵本賞など多数受賞。毎日放送『ちちんぷいぷい』でのスケッチ散策で、お茶の間にも人気。好きなもの温泉とお酒、嫌いなもの甘いもの。

「旅のお供にお弁当」

 駅弁は好きですか?

 いきなりの愚問ですね。駅弁嫌いな人っているのかなあ、いませんよねえ。旅に出たら電車に乗って駅弁ですよね。

 僕は大阪に住んでいますので旅の出発は新大阪からというのがいつものパターンです。まず新大阪駅に着きましたら弁当屋さんを探します。本当はあのお店このお店と何軒かの勝手にこっちが思っています贔屓の店があるのですが、あれやこれやといつもは買わないお弁当屋さんを覗くのも旅の始まりの楽しい儀式です。もうここからワクワクの旅が始まっています。

 最近は和洋中どころかエスニックに懐に余裕があれば超高級弁当まで何でもあります。その場で炊きたての温かいご飯をよそってくれるお店もありますね。でもね僕はねあえて車内で食べる駅弁は温かいご飯より冷たいご飯が好みです。お米の表面が少し硬くなっているくらいが好き。割り箸を突っ込む時「うんにゅお」とほんの少し気合を入れなあかんくらいのご飯が好き。

 できれば駅弁はペラペラでもいいから木の折箱で蓋の上をその駅弁をイメージする意匠の紙で包んであってそれを繊維の硬い紙ひもで縛ってあるのがいいなあ。解く時が楽しいさかい。

 先日も新大阪から岡山駅で特急やくもに乗り換えて米子へと旅に出ました。

 まずはどれにしょうかとお弁当を探すのですが新大阪駅でいつも心に蘇る新幹線の思い出があります。

 小学校五年生の時やったかなあ。「ひかりは西へ」をキャッチフレーズに、山陽新幹線「新大阪駅〜岡山駅間」が開業しました、古い話やなあ。

 その当時僕の叔父さんが国鉄に勤めていました。小学一年生で父親を亡くした僕を我が子のように可愛がってくれた叔父さんは、さあこの新幹線に可愛い甥っ子を乗せてやろうとまだ試運転やったと思うのですがわざわざ僕をその「ひかりは西へ」に乗せてくれました。叔父さんはどうだとばかりに嬉しそうでした。

 叔父さんが車内で食べようと用意してくれたのは駅弁ではなく、叔母さんが用意してくれた手作りのお弁当。

 炊き込みご飯をおにぎりにして旅の情緒が出るようにと考えてくれたのか竹の皮で包んだお弁当。おにぎりの横には牛肉を甘辛くからっと炊いたやつも添えてくれてありました。

 当時は新大阪駅〜岡山駅間58分。岡山に着く前にお弁当を食べんとあかんと急いで姫路を過ぎたあたりでもうおにぎりをほうばっていました。

 50年近く経っても舌が覚えている優しい大切な思い出です。やっぱり旅は心の大切なシャッター押してくれます。

 さてその先日の米子の旅からの帰りの電車もやっぱり駅弁を買い込みました。もちろん缶ビールにカップのお酒二本も忘れません。

 特急やくもに揺られて車窓の紅葉狩りで一杯をという腹積もり。べんと開いて缶ビール開けて酒飲んでええ塩梅で気がついたら岡山でした。

 次は何処へどんな駅弁と旅に出よかいなあ。

ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ