旅の味めぐり 駅弁

さんま寿司

◎阪和線・和歌山線・紀勢本線/和歌山駅

薄い昆布をまとったさんまの艶やかさとほのかな酢の香り。
秋から冬にかけ、北の海から熊野灘へと南下する
さんまで作る「さんま寿司」は、
海の幸に恵まれた和歌山ならではの郷土ずしだ。
古くからハレの日を飾ってきた伝統の食は
今、紀州を巡る旅の味として、親しまれている。

海の恵みを生かした素朴な味が旅の思い出を彩る。

すし文化が息づく紀州名物

和歌浦(写真提供:和歌山市)

 紀伊半島の南西部を占める和歌山県は、紀伊水道から熊野灘に至る、南北に長く変化に富んだ海岸線を持つ。沿岸地域には、壮大な海を背景にした食文化が息づき、豊かな海の恵みを生かした郷土料理が数多く残されている。とりわけ、祭りや慶弔などの行事と密接に結び付いた「すし」は、その種類も多彩だ。和歌山市近郊ではエビやエソのそぼろを使ったこけらずし、有田周辺ではタチウオすし、日高地方ではサバのなれずしや早ずしなど、地域ごとに特色あるすしが生まれてきた。

 秋から冬にかけ、釧路沖から三陸沖、そして熊野灘へと南下してくるさんまで作る姿ずしは、串本や新宮など、主に紀南地方に伝わる郷土料理だ。北の海から旅を続けたさんまは、脂がほどよく抜けて身が引き締まり、焼いて食べるよりもすしにすると格別の味わいになるという。新鮮なさんまの背または腹を開き、ワタや中骨を丁寧に取り除いた後、塩をあててから酢でしめる。酢飯の上に乗せて形を整え、専用のすし箱に入れて押すとさんまの押しずしが出来上がる。香りづけに、地元名産のゆずを添えることもあるそうだ。この地方では、さんまのことを「さえら」とも呼ぶ。鉄砲に似た独特の形から「さえらのてっぽう」の名を持つ伝承の味。秋祭りや正月、祝い事には欠かせないハレの日の食として受け継がれている。

 阪和線、和歌山線、紀勢本線が乗り入れる和歌山の玄関口、和歌山駅で販売されている「さんま寿司」は、そんな郷土名物を駅弁に仕立てたものだ。紀州の食文化を伝える旅の味として、昔ながらの味わいのままに旅人を出迎える。

郷土の味に老舗の技と心を込めて

 「さんま寿司」をはじめ、和歌山駅構内での弁当販売を担っているのは、市内で折り詰め弁当や寿司類の製造販売を行う和歌山水了軒。創業1898(明治31)年という老舗の味には地域のファンも多く、「小鯛雀寿し」は創業当初からのロングセラー商品だ。この「小鯛雀寿し」を中心に、数種類の弁当のみで長く旅の食を支えてきたが、より和歌山らしい食材が求められる中、「めはり寿し」や「本わさび寿司」などのご当地ずしを手がけるようになったそうだ。「さんま寿司」も、こうした郷土の味を追求する中から約20年前に誕生したものだという。駅弁を通じて県内の特産品を広く知ってもらい、その土地に足を運んで地元の味を訪ねてほしい。そんな駅弁づくりへの思いがこもった逸品だ。

 「さんま寿司」の味の決め手はやはり主役のさんま。熊野灘周辺を回遊するさんまを塩漬けにし、鮮度を保った状態で冷凍保存したものを通年使用する。冷凍技術の進化で、足の早いさんまも季節を問わず提供できるようになったが、自然が相手のため、不漁の年は生産を中止することもあるそうだ。加えて、合わせる米も選び抜いたこだわりの品種。炊くと硬くにぎりにくいが、餅米のような食感でさんまとのなじみ具合が絶妙という。季節によって水分が異なる米を見極め、炊き分けるのはベテランの職人。オリジナルのすし酢の配合も、暑い時期はやや酢を強めにするなど、きめ細かく調整する。一つ一つ型に入れて押す力加減は、長年の経験によって培われた技と感覚だ。艶やかで香り高いさんまと甘めの酢飯のハーモニーは、紀州の旅の思い出を一層豊かに彩ってくれる。

昔ながらの味、個性豊かな味、紀州の旅で味わいたい駅の名物

小鯛雀寿し〔和歌山駅/和歌山水了軒〕

鯛の好漁場として知られる紀淡海峡の小鯛でつくる郷土のにぎり寿し。絶妙な塩味にしめた鯛とほんのり甘い酢飯との相性が抜群の看板商品。
〔価格:6個入り1080円(税込)〕

パンダ弁当〔白浜駅・紀伊田辺駅/味三昧田辺本店〕

焼きのり、シソ、鶏そぼろを挟んだごはんの上には、ジューシーな紀州うめどりの唐揚げや南高梅が。パンダの町にちなんだ容器も愛らしい白浜駅名物。
〔価格:880円(税込)〕

〔価格は全て2017年10月20日現在〕

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