沿線点描【東海道本線(JR京都線)】大阪駅〜京都駅(大阪府・京都府)

淀川に沿い、北摂の山々を車窓に大阪、京都の二大都市を繋ぐ

大阪駅、京都駅は西日本を代表する巨大ターミナル。二大都市を結ぶ東海道本線(JR京都線)は、国内有数の旅客数を誇る西日本随一の大動脈だ。今回は普通電車に乗り込んでゆっくりと沿線を辿ってみた。

ドーム屋根に覆われた大阪駅7番線ホームに停車する普通電車。

旧西国街道の要の宿・茨木

江戸時代、西国大名の参勤交代に利用された茨木の郡山宿本陣。建物は往時のままだ。

 大阪〜京都間に鉄道が開通したのは1877(明治10)年の2月。日本初の鉄道路線である新橋〜横浜間開業のわずか5年後だ。以来130年以上に及び、利用客数は計り知れない。超モダンな駅に生まれ変わった大阪駅(大阪ステーションシティ)は、開業から5周年を迎え、昼夜を問わず大勢の人で賑わっている。

 駅のシンボル、ホームを覆うドーム屋根の巨大さには見るたびに感嘆。7番線で待っていると神戸方面から普通電車が入ってきた。ラッシュ時を過ぎているにもかかわらず、乗客がどっと降り、そして乗り込む。こんな光景の繰り返しが大阪駅の日常だ。電車は静かにホームを離れ、商業施設が入る大阪ステーションシティや、周辺の高層ビル群が遠ざかっていく。

淀川に架かる登録鉄道文化財「上淀川橋りょう上り内外線」。1901(明治34)年に開通した22連のトラス橋だ。

1923(大正12)年開業の旧吹田操車場。現在その一部は、吹田貨物ターミナル駅として機能している。

 すぐに左にカーブし、トラスが連続する淀川の長大な鉄橋にさしかかる。この橋梁は、「上淀川橋りょう上り内外線」と呼ばれ、明治の開通時からの姿のまま今も現役で、登録鉄道文化財に指定されている。淀川を渡るとすぐに新大阪駅。東海道・山陽新幹線に乗り換えるであろう、大きな荷物を持った人たちが下車していく。

 次の東淀川駅にはあっという間に到着。距離は1kmもない。そして神崎川を渡ると吹田駅。大きなビール工場が隣接する広大な敷地に、葉脈のように線路が敷かれコンテナや貨車が並んでいる。岸辺駅、千里丘駅にかけた一帯はかつて貨物ターミナルであった「吹田操車場」。その一部跡地は目下、国立循環器病研究センター移転などの再開発が進んでいる。

昨年、万博記念公園にグランドオープンした大型複合施設「EXPOCITY」。

ノーベル文学賞を受賞した川端康成の著書や遺品、書簡などを展示する川端康成文学館。幼少期を茨木で過ごした川端康成の功績を讃える。

池田、伊丹と並び「北摂三銘酒」の一つに数えられた富田。江戸初期より阿武山山系から流れる清水を使い、酒造りが盛んに行われた。

 吹田はかつて神崎川の水運で栄えたところで、町の繁栄を物語るのが「浜屋敷」だ。車窓の左に千里丘陵が映っている。「大阪万博」の会場だったところで、昨年、西日本最大規模の複合施設「EXPOCITY[エキスポシティ]」が誕生した。今、大阪の新しいホットスポットとして話題を呼んでいる。最寄り駅は次の茨木駅。茨木はその昔、旧西国街道の要所として本陣もあった往来の賑やかな宿だった。川端康成が育った地でもある。

 列車は茨木市から高槻市に入る。摂津富田は伊丹や池田と並ぶ銘醸地であった歴史がある。江戸時代には24軒もの酒蔵があったそうだが、現在でも2軒の酒蔵家が伝統の酒造りを行っているという。JR京都線の主要駅の一つ、高槻駅は間もなくだ。

千利休も愛でた山崎の名水

天王山からの淀川の眺め。3つの川が合流して淀川になる。

 高槻は大阪、京都のいずれからも約21kmの中間点。古くから摂津国の要地で、大阪・兵庫・丹波の分岐点。戦国時代にはキリシタン大名の高山右近が治めたことでも知られる町は、大阪、京都のベッドタウンとして発展し続けている。

山崎駅のホーム内にある京都府と大阪府の境界を示す標識。山崎駅の所在地は京都府である。

 高槻駅を離れると、車窓には北摂の山々がいよいよ間近に見えてくる。島本駅を過ぎると京都府だ。この地点で、桂川、宇治川、木津川が一つに合流して淀川と名前を変える。山は左の車窓にさらに迫り、山崎駅の後背に見えるのは天王山。羽柴秀吉軍と明智光秀軍が天下を分ける戦をした有名な古戦場だ。

キリシタン大名として有名な高山右近が治めた高槻城。現在は、城跡公園として市民の憩いの場になっている。

山崎は万葉の歌に詠まれるほどの名水の里で知られる。

「貯蔵庫の温度調節は、一切していません。山崎の四季の温度変化を生かしながら熟成しています」と、ウイスキー造りについて説明するサントリー山崎蒸溜所の案内の方。樽の中で寝かせることで原酒が蒸散して減る現象を、「天使のわけ前」と呼ぶ。貯蔵庫に宿る天使が味見をしているのだとか。

 その麓は、日本のウイスキー誕生の地でもある。山崎は古くから名水の地として有名で、千利休もここの名水を讃え茶室を構えたという。「サントリー山崎蒸溜所」が竣工されたのは1924(大正13)年。初代工場長は朝の連続テレビ小説で注目を集めた「マッサン」。天王山の水と多湿な風土がウイスキー造りに最適だった。

 「ウイスキーづくりにとって、水は品質を決める大きな要素の一つです。シングルモルトウイスキー山崎の複雑・繊細な香味は、良質な地下水と多くのつくり手たちのこだわりから生み出されるのです」。そう話すのは、蒸溜所を案内してくださった係の方。見学は要予約で、連日大勢の見学者が訪れるほどの人気ぶりだ。

登録鉄道文化財の「円妙寺橋梁」は、半円アーチのねじりまんぽ構造を持つ。「ねじりまんぽ」とは線路と道路が斜めに交差する場合に用いられ、線路と直角にレンガを積むことで、アーチ部分がねじれたようになる。

8種類の竹垣が連なる全長約1.8kmの「竹の径」。長岡京市や向日市は、京たけのこの産地で知られる。

 山崎の隣が長岡京駅。途中にある「円妙寺橋梁」は明治の鉄道開設時の姿をとどめるレンガ造りのアーチ橋で、貴重な登録鉄道文化財。長岡京は、平安京に先立つ長岡京が置かれた地で、菅原道真を祀る長岡天満宮が鎮座する。竹林の景勝地でたけのこの名産地としても有名だ。向日町を過ぎて桂川を渡ると、西大路駅。

西大路駅と京都駅の中程にある梅小路公園。緑と花で憩える都市公園で、敷地内に京都鉄道博物館や水族館などがある。

京都タワー、東寺の五重塔が見えるとまもなく京都駅だが、その手前で梅小路の扇形車庫が見えてくる。今春リニューアルオープンした「京都鉄道博物館」で、早くも見逃せない京都の新名所の一つとなっている。新快速で通り過ぎる町や風景も、各駅停車で辿るといくつもの新しい発見がある。

時代を彩った車両がずらり、京都鉄道博物館

本館3階の展望施設「スカイテラス」からは、東海道本線(JR京都線)を挟んで左手に京都駅ビルと京都タワー、右方向に東寺の五重塔が見える。

各時代を代表する車両が展示される本館1階。写真右は、重要文化財に指定される現存最古の量産型国産蒸気機関車、230形233号機関車。

 京都を訪れたら絶対見逃せない新名所となる「京都鉄道博物館」。長らく親しまれて昨年8月に閉館した「梅小路蒸気機関車館」に代わって、4月29日に新たにグランドオープンした。京都鉄道博物館は、大阪環状線弁天町駅にあった旧「交通科学博物館」の展示車等を移設し、鉄道文化遺産として高く評価される鉄道車両を擁する国内最大級の鉄道博物館。コンセプトは「地域と歩む鉄道文化拠点」。「見る、さわる、体験する」を重視した展示構成で、子供にも大人にも、日本の鉄道の歴史、技術を楽しみながら学べる、そして発見と感動がある内容だ。

SL動態保存の拠点として新設されたSL第2検修庫。連絡デッキからSLの検査修繕の作業風景を見学できる。

 展示するのは、各時代を彩った23両の蒸気機関車を含め、0系新幹線の第1号車両やギネスブックに登録された500系新幹線、惜しまれつつ引退したトワイライトエクスプレスなど53車両。見どころは展示車両だけではなく、テーマ別にさまざまな趣向が施されている。「鉄道のあゆみ」「車両のしくみ」「鉄道の施設」など、各時代の懐かしい風景を再現したり、鉄道の安全の取り組みや、手に取って動かして体感できる展示内容となっている。「鉄道ファンだけでなく、全国、海外からも多くの方にお越しいただき、日本の鉄道の素晴らしさを見て、さわって、体験してもらい、何度でも来てほしいです」と京都鉄道博物館企画課の竹中悠祐さんは話している。

列車を安全に走らせるための「ATS(自動列車停止装置)」や「ATC(自動列車制御装置)」の役割と仕組みを模型を使って運転体験ができる。

京都鉄道博物館企画課の竹中さんは「蒸気機関車など車両を展示する“プロムナード”や車両点検を行う工場を再現した“車両工場”は、ぜひご覧になってください」とお薦めしている。

ページトップへ戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ