鉄道に生きる

田中 真宏 山口乗務員センター

運転技術の向上を図り安全性を高める

蒸気圧計、速度計などの計器類や蒸気が通る配管がむき出しになっている運転台。機関士が運転し、石炭をボイラーに投炭したり石炭の燃焼促進などの作業を機関助士が行い、二人三脚でSLを動かしている。

 「SLにご乗車のお客様は、移動手段ではなく、乗ることを目的に来られます。お客様の思いに応え、満足していただけるよう、安全、CS、技術の向上に努めています」。9月から開催している山口デスティネーションキャンペーン。目玉の1つが、客車をリニューアルし装いも新たにしたSL「やまぐち」号である。その機関士の1人、田中真宏 運転士を訪ねた。

裏方の存在と感謝の気持ち

SL「やまぐち」号

 現在田中は、山口線を中心に乗務するほか、電車、気動車、SLの運転士を養成する指導操縦者としても活躍している。「運転士になりたかった」という田中は駅、車掌を経て電車、気動車の免許を取得。そして運転士として10年ほど乗務してきた2007年、SL機関士の資格取得の機会を与えられた。電車、気動車と異なり、SL機関士の養成人数は少なく、田中の年は1人だった。SLの運転台に上り、複雑な計器類や配管を初めて見て「これを運転するのか」と驚いたという。「相談する同期もおらず、不安でした」と話す田中は、師匠の厳しい指導の中、必死で知識や技術を自分のものにする努力を続けるが、「師匠に言われるがままに動く操り人形でした」と当時を振り返る。日々叱咤激励を受けながら、「やめるわけにはいかない」と自分を奮い立たせ、晴れてSL機関士となった。

 田中は、技術以外にも大切なことを学んだ。それは、鉄道の運行を支える裏方ともいえる人々の存在にあらためて気付いたことだ。きっかけは、SLの検査修繕作業をその目で見たことだった。SLは車両が古いため不具合が生じても代わりとなる部品がなく、新たに部品を製造しなければならない。田中はその様子を間近で見て、「自分が運転できるのはこの方々のおかげ。車両以外にも、さまざまな系統で多くの方が懸命に努力しているからこそ、自分が働ける」とあらためて実感した。「周囲への感謝の気持ち、車両や機器への愛情や、優しく、丁寧に扱うことの大切さを思い出しました」。

安全、CS、技術の向上にとことんこだわる

過去の経験から、ブレーキ扱いには特にこだわりを持って運転する。

 田中が大切にしているのが、「ご乗車されているお客様を第一に考える」ことだ。田中はこれを「田中イズム」と自称しており、その1つに、車種を問わないブレーキ扱いへのこだわりがある。過去にブレーキ操作をスムーズにできなかった時、お客様から直接ご意見をいただいたことがあった。突き詰めて考えるとお客様の転倒にも繋がりかねない事象であり、安全で快適にご乗車いただくために技術の向上への意識がより高まった。「『お客様を一番に考える行動』は人によってさまざまだと思いますが、技術を向上させ、安全性を高めることを心掛けています」。

 技術の向上はCSの向上にも繋がる。その例が、坂道発進だ。SL「やまぐち」号が走る山口線は曲線が多くスピードが出しにくい上に急勾配があるため、坂道を登り切れずに止まってしまうことがある。田中は国鉄時代から伝わる手法(ブレーキ弁による発進方法)をもとに仲間と協力し、より効果的な手法を検討し、誰もができる基本的な操縦方法(加減弁※1による発進方法)を考案した。この手法は、社内で実施している「運輸関係業務研究本社発表会※2」で2010年度の最優秀賞を受賞した。「せっかくSLに乗りに来られたお客様に残念な思いをさせるわけにはいきませんので、さまざまな事態に対応できるよう日々仲間と努力しています」。

コンビで働くSLを経験して気付いた技術継承の大切さ

SL運転台の構造を見習いに説明。

 田中は指導操縦者として後輩の指導にもあたる。「先輩方が培ってきた技をいかに継承していくかが大切だと感じています。乗務員は1人で仕事をすることが多く、仲間と話をする機会が他系統よりも少ない気がします。一方SLは常に機関士と機関助士が二人三脚で仕事をする上、人数も少ないため、仕事の話をしたり先輩の技を見る機会が多くあり、技術継承がスムーズに行われている好例だと思います。SLの経験があるからこそ、技術継承の大切さを実感しましたし、私が先輩から学んだことや、『田中イズム』をしっかりと後輩に受け継いでいかなければならないと強く感じています」と、自身が感じる役割を強く語る。SLの動輪のように、これからも大車輪で動き続ける。

※1…シリンダーに送られる蒸気の量を調節する弁。 ※2…安全、CS、技術・技能などの向上を目的とした研究を発表。
ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ