鉄道に生きる

平田 博幸 広島支社 輸送課 主席

常にお客様視点の列車ダイヤを提供する

組み立てたダイヤを輸送計画システムに入力する。駅間の運転速度や駅の制約を満たしたダイヤ作成には、車掌の経験が役立っているという。

列車の安全・安定を一筋の線に込める

秒単位で刻まれる緻密なダイヤは、線を引く「スジ屋」の技量によって組み立てられている。

 列車の運行は、全てダイヤと呼ばれる「列車運行図表」に基づいて行われる。路線ごとに作成される運行図表(ダイヤ図)には、横軸に時刻、縦軸に駅名が刻まれ、列車がいつ、どこを走るのかという、列車の動きを1本のスジで表した斜線がびっしりと引かれている。秒単位での運行計画を1本1本書き記しているのは、ダイヤ作成の専門家だ。作成には職人技ともいえる緻密で正確な技術を必要とすることから、「スジ屋」と呼ばれている。

 平田は、現在、広島エリアの11路線のうち、呉線と可部線のダイヤ作成を担当するスジ屋の一人である。入社は、1981(昭和56)年。当時の東広島駅(現 広島貨物ターミナル駅)の貨物の入れ替え作業などを行う構内係からスタートし、車掌として山陽線や芸備線などの路線に乗務した経歴を持つ。その後、広島CTCセンターでは、列車の運行管理に従事した。

 ダイヤ作成に携わったのは、輸送課に配属された1994(平成6)年からで、「最初は、工事用の臨時列車を設定しながら、スジの作り方の基礎を覚えていきました」と話す。以来、今日まで20年以上にわたり、定期的なダイヤ改正はもとより、災害時の臨時ダイヤ作成などの重責を担ってきたベテランだ。平田が常に意識しているのは、「安全最優先」と「定時運行」という鉄道の基本。「私たちは、直接お客様に接する機会はありませんが、安全で安定したダイヤを提供することで、“お客様満足”に携わっています」。

定時運転の使命を果たすために

「知りたいことがあれば現場に出向く」のが基本姿勢。ダイヤをもとに運行状況を検証し、さらなる改善のヒントをつかむ。

 ダイヤ作成にあたっては、「まずは各列車の乗車率を頭に入れてスジを引くことが大切」と平田は語る。そのため、実際に現場に出向き、どの列車にお客様が多く乗車されているかなどを、自分の目で検証することを信条としている。「区間ごとに最大乗車人数の調査データはありますが、やはり自分の目で、1両ごとの乗車人数、あるいは混雑の状況を把握することが、遅れのないダイヤづくりには不可欠です」。

 現場では、各列車の運転状況も確認し、慢性的に遅れる列車など、現状の問題点を洗い出しておくそうだ。地道な作業で得た情報は、輸送改善を目的に行われるダイヤ改正に生かし、お客様にとってより快適で、利便性の高いダイヤ作成に繋げている。

 しかし、定時運行を目指して作成されるダイヤも、自然災害をはじめ、さまざまなトラブルによって、大きく乱れる場合がある。昨年6月、広島県を中心とした大雨の影響により、呉線の三原〜広駅間の数カ所で土砂流入などの災害が発生。運転を見合わせる事態となった。平田は、復旧までの約3週間、運転見合わせ区間や折り返し駅が日々変更になる中で、最大限の列車を走らせるため、毎日ダイヤを書き換えたという。「臨時とはいえ、大幅なダイヤ変更は通学時間などに影響します。できるだけ現行のダイヤに近いスジを引くことを心掛けました」。

 実は、平田は広島総合指令所で輸送指令の業務にも携わり、総括指令長を務めた経験がある。徐行速度が目まぐるしく変わるなど、緊迫した状況での臨時ダイヤ作成には、列車の安全走行を司る指令で培った経験が生きている。

ダイヤ図に描くお客様への思い

グループ内の打ち合わせでは、次のダイヤ改正へのビジョンや具体的な施策について意見を出し合う。

 平田が担当している呉線、可部線は、どちらも単線の電化路線だ。行き違いの停車時間はできる限り短く、また昼間の時間帯は時刻表を見なくても済むように、同じ時分の覚えやすいダイヤに設定するなど、線区の特徴を考えたお客様視点での配慮を盛り込んでいる。

 この3月のダイヤ改正で、可部線はこれまでの終着駅「可部」から新駅の「あき亀山」までの約1.6kmが電化延伸され、一度廃止された路線の一部が復活した。平田は、開業に向け、電化延伸区間の新たなダイヤを作成。可部線は、車掌として乗務した馴染み深い路線でもある。「かつてはディーゼル車が通っていた区間。試運転で、地域の期待を担い復活した線路を走る電車を見た時は、感無量でした」。

 平田には、さらなる感動の場面が待ち受けている。6月17日に運行を開始する新たな寝台列車「TWILIGHT EXPRESS 瑞風[みずかぜ]」のダイヤ作成プロジェクトに、広島支社エリアの代表として参画したのだ。「海沿いを走る時は速度を落として走行し、瀬戸内海の多島美を堪能していただきます。また、食事中の停車は避け、外からの視線を気にせずお食事を楽しめるよう配慮しました」。特別な旅の列車のダイヤにも、お客様への思いを込めたスジが引かれている。

※CTC(Centralized Traffic Control)とは列車集中制御のこと。信号機の制御などをセンターに集中し、運転状況の監視などを一括して行う。
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