旬膳暦

ホンモロコ

滋賀県東近江市

春ならではの味わいが淡海の旬を飾る

滋賀県のシンボル琵琶湖は、日本最大の面積と貯水量を誇る。「淡水魚の宝庫」としても知られ、固有種16種を含め、50種にも及ぶ多様な魚類が生息している。
独自の湖魚食文化が息づく中、「ホンモロコ」は豊かな味わいで琵琶湖を代表する幸として珍重される。春3月、湖の水がぬるむ頃に風味が増すというホンモロコの旬を訪ねた。

獲れたてのホンモロコは、炭火での素焼きが絶品。好みで酢味噌、しょうが醤油などをつけ、程よい苦味と香ばしさを楽しむ。(写真提供:滋賀県)

かけがえのない琵琶湖だけの恵み

 ホンモロコはコイ科の琵琶湖固有種で、成魚の体長は12〜13cmほどになる。水温が低下する冬季は沖合の水深約80mの深層で過ごし、春の訪れとともに湖岸に近づき群れをなして回遊する。4月から5月頃、沿岸のヨシ帯や内湖[ないこ]のごく浅い水域で産卵。孵化した稚魚は沿岸域で成長し、秋になると深みに向かって移動する。

 味わいは淡白で、丸ごと食べられるほど骨も柔らかく、コイ科の魚類の中では味の良さで知られる。ほぼ1年を通して水揚げされ、さっぱりとした夏モロコ、脂ののった秋モロコなど、季節ごとに違った風味を楽しめるのが特徴だ。中でも、産卵を控えた春先の子持ちモロコは、卵の食感と旨味を堪能できることから、琵琶湖の春の名物として人気が高い。素焼きや甘露煮、南蛮漬けなど料理も幅広く、かつては地域の食卓を賑わせてきた。

 しかし、最盛期には350tを超える漁獲量を誇ったが、1995(平成7)年からは激減。2004(平成16)年には約5tまで落ち込んだ。その要因として、外来魚による卵や稚魚への食害、また琵琶湖の水位操作で卵が干出したことが挙げられる。開発によって、産卵場所として好むヨシ帯も減少した。高級魚となり、食卓から遠のいたホンモロコを守るため、近年、県の農政水産部水産課や漁業者、地域の農家などが協力し、外来魚の駆除や稚魚の水田放流、産卵状況の調査など、さまざまな対策に取り組む。成果は徐々に現れ、湖国の幸は今、回復の兆しを見せている。

内湖が支える伝統の味の復活

 琵琶湖の東部、伊庭[いば]内湖には、春の声を聞く頃になると琵琶湖からホンモロコが遡上[そじょう]してくる。ホンモロコの産卵は水温12度以上が目安とされ、内湖は春先の水温が琵琶湖よりも高いためだ。ヨシや豊富なプランクトンなど、産卵や孵化を促す条件も揃っている。春の漁期を迎えた伊庭内湖では、水中に網を下ろして掛かった魚を絡め取る刺網漁が行われる。網は夕方に仕掛け、早朝に引き上げる。水揚げされた卵を持つ春のホンモロコは、ふっくらと見た目も美しく、格別の味わい。獲れたてを炭火で焼くと、本来の味が際立つという。

 地元の能登川[のとがわ]漁業協同組合では、外来魚駆除によって回復しつつある漁獲量をさらに増やすため、2012(平成24)年からは伊庭内湖一帯に禁漁期間を設定。4月中旬から5月中旬まで、産卵期における自主禁漁に取り組み始めた。漁業者による産卵保護は、ホンモロコの生態系に大きく寄与し、多数の稚魚が生き残って成長した後、孵化した場所に戻って産卵するという、生命の循環を生んでいる。さらに、伊庭内湖で生まれた稚魚は、琵琶湖の広域へと分散することから、琵琶湖全体の漁獲量をも支えている。

 東近江市では、能登川漁協や地元の飲食店も加わって、特産のホンモロコの美味しさを普及する活動に力を入れている。また、市内の小学校の給食にはホンモロコが登場し、子どもたちは伝統の味に親しむ。食の豊かさとは、湖の豊かさに他ならない。

※内湖は、本来琵琶湖の一部であったが、沿岸流の作用や流入河川から運ばれた土砂の堆積などによって切り離された潟湖。

水揚げされた春先の子持ちホンモロコ。刺網漁では、時期によって変わる魚の大きさに合わせ、その都度の網目を調節するという。

水揚げされるホンモロコの約95%は1歳で、ほとんどが産まれた翌春に産卵するという。伊庭内湖や西の湖(近江八幡市)など内湖における産卵回復が、漁獲量復活に貢献している。

クセがなく上品な味のホンモロコは、味わい方も多彩。地元には、湖魚料理を代表する「甘露煮」(写真)をはじめ、白味噌をつけて焼いた「魚田」などが伝わる。

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