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広島駅を“語る” Vol.03 周辺の施設も回遊し、何時間でもいたくなる広島駅に

  • JR西日本 中国統括本部 経営企画部
    (事業創造グループ)竹之内祐貴さん
    JR西日本入社後、本社に勤務。梅田などのエリアマネジメント業務に携わり、2019年からは広島新駅ビルのプロジェクトにも参加。2021年に広島支社(現、中国統括本部)に異動。広島駅ビル開発プロジェクトや駅周辺の公共空間利活用を進める社会実験事業などに携わる。

目次

サポート&パイプ役となり、共通の目標に向かって邁進!

広島駅ビル開発プロジェクトにはいつから関わっていますか。

竹之内:実は広島に異動してくる前、本社にいた2019年から広島駅ビル開発プロジェクトに関わっています。当時は路面電車が乗り入れる2階中央部分のデザインを進めている段階でした。広島・瀬戸内の玄関口として、広島らしさが感じられ、地域の方々に親しみを感じていただける象徴的な空間にしたいという思いで、検討を重ねていきました。地元の良さを取り入れるなら、やはり地元の人をということで、広島出身の建築家に依頼し、川の水面の揺らめきをモチーフにした壁面デザインや、雁木をイメージしたテラスの配置など、路面電車が乗り入れる空間のデザインに立ち上げから関わっています。屋上広場のデザインも同じ建築家に依頼し、同様に進めていきました。

駅周辺の再開発の取り組みもされていたと伺いました。

竹之内:2020年に、広島駅の北口にあったJR西日本の広島支社が現在地(東区上大須賀町)に移転しましたが、一部施設の移転作業は引き続き行われています。駅前の土地を眠らせておくのではなく、地域の方々が利用できる空間とするため、支社跡地活用計画の検討を行いました。グループ会社を運営者とし、暫定的に芝生広場やフットサルコート(ekieエキキタパーク)の整備がなされています。このekieエキキタパークにおける運営を通じて、広島の方々のニーズや興味を汲み取り、新駅ビルの運営につながっていくことを期待しています。

広島に赴任されてからはどのような仕事をされていますか。

竹之内:広島には2021年に着任しました。商業施設やホテルを運営するグループ会社がプロジェクトのメインになり、当社はそれをサポートする役割を担います。新駅ビルと広島駅は一体化しているため、計画を進める際も、工事の調整などさまざまな部分でパイプ役になることも。路面電車が乗り入れる部分は広島電鉄、広島市の三者で連携して作っている空間であり、特に工事に関係する方々の強い思いが反映された、こだわりある空間になっています。これはかなり良い空間になる…!と実感しています。

路面電車が乗り入れる空間に自信がおありですね!

竹之内:良い空間になることは間違いないので、その魅力的な空間をどう維持していくか、防火や防災、清掃などの面も含め、三者で連携して管理運営する体制を整えていくのが中国統括本部としての役割になります。

3者の連携をスムーズにするコツは?

竹之内:行政である広島市、民間企業の広島電鉄、当社と複数関係者がおり、すべての利害が一致するわけではなく、調整が一筋縄にはいかないことも多々ありますが、「広島駅周辺を魅力的な空間にする」という目標は共通しているため、互いにその前提を理解した上で、折り合いをつけながら進めております。また、広島電鉄は広島エリアでともに営業する同じ鉄道会社ではありますが、意外に競合せず、新幹線や在来線で広島駅に来て、そこから路面電車に乗り換えて街中へという流れになるので、住み分けができています。

公共空間も生かし、広島駅を中心に回遊性のある街へ

広島駅ビル開業に合わせて社会実験もされているそうですね。

竹之内:広島駅には南北自由通路のほか、北側のペデストリアンデッキなど、2階部分に幅が広い公共通路が設けられています。来春、広島駅ビルが開業すると南側にも公共空間が誕生する予定です。広島駅周辺も再開発で魅力的な建物ができていますし、この空間を、ただ歩いて建物に向かうだけのスペースにするのではなく、移動している間も楽しめる賑わいと活力のある空間にして、駅に来られる方々が楽しんで回遊できる仕組みを作れたらという思いで、社会実験をスタートしました。

どのような実験をされていますか。

竹之内:主に、3つの空間づくりを行っています。一つは、大学と地元企業が共同制作したベンチや椅子を配置しました。元々、社会実験開始以前に、JRの単独事業として、広島駅北口1階のスペースに芝生広場や椅子、テーブルを設置したところ、かなり多くの方にご好評いただいていたこともあり、休憩スペースの需要を認識しておりましたが、実際に公共空間にも配置して見ると、かなり多くの方が利用されていて、改めて休憩する場所が必要なんだと需要の大きさを感じています。

二つ目に、ペデストリアンデッキ等の公共空間に面する店舗の席を外まで拡張することを実施しました。ekie店舗協力のもと、オープンカフェを実施した際には、国内外多くの方に利用されている様子を確認できました。広島の場合、欧米からの訪日客が多いので、こういった空間は今後も需要がありそうです。

三つ目に、駅周辺地区のイベントと連携し、ライブパフォーマンスや演奏、屋台出店、冬にはイルミネーションの設置など、賑わい空間の創出に向けた取組を定期的に実施しました。結果としては、通行の妨げもなく、多くの方に立ち寄っていただけ、駅周辺エリア一帯の賑わい創出につなげることができ、引き続き継続していく価値があると実感しました。

公共空間の利用となるとさまざまな制限もあったのでは?

竹之内:おっしゃる通りで様々な法的規制があり、通路としての機能を担保した上で、活用方を考えることが大前提でした。公共空間の活用にあたっては、様々な手法がある中で、どういった規制緩和の形がフィットするのかを含め、社会実験として検証をしています。昨年度は市民の方を対象にしたアンケート調査や流動分析を行い、結果を踏まえ、今年度はブラッシュアップした取組の展開や、賑わいや憩いの空間を持続的に維持管理していくための管理運営体制を構築していく予定です。

広島駅南口のバスターミナル付近にある「魅せる仮囲い」で広島の魅力を発信

広島駅南口のバスターミナル付近にある、工事の仮囲いのデザインにも取り組まれたそうですね。

竹之内:無機質で、大きな音も伴う工事は周囲に良い印象を与えませんが、だからこそ、仮囲いをデザインし、何かを発信できればという思いで始めました。単なるアートではなく、「魅せる仮囲い」として広島の文化や魅力を発信すべく、2020 年7月からスタートし、第1弾は「HIROSHIMA PRIDE(ヒロシマプライド)」、第2弾は「広島の酒」を実施。第3弾から私も加わり「広島のスポーツ」、第4弾は「広島を食べよう」、第5弾は「ものづくり広島、その成り立ち」を、3〜6カ月単位でデザイン変更して展開しました。第1弾と第4弾の企画は、広島広告協会主催の「広島広告企画制作賞」の屋外広告部門で金賞を受賞し、評価していただきました。

私も仮囲いの前で立ち止まって文章を読んだことがあります。反響も大きかったのでは?

竹之内:第3弾のスポーツのときは、現在活動しているスポーツ少年団を取り上げたためか、ご家族で撮影されているのをよく見かけました。第5弾のものづくりをテーマとした装飾では、現在でこそ中四国エリア一の工業出荷額を誇る広島におけるものづくり発展の歴史を紹介しました。原爆で焼野原になったにもかかわらず、過程で培われた技術が継承され、再び立ち上がった広島の「地力」の強さやたくましさを伝えられたらと願い、歴史にフォーカスしました。そのためか、ご年配の方が足を止めて文章を読まれていたのが印象的でした。

第6弾の予定はありますか。

竹之内:工事が進み、仮囲いが減ってきたため、今までのような大掛かりなものはできそうにありませんが、これまでの総集編的なデザインができたら…と考えています。こちらは未定なのでどうなるか分かりませんが、お楽しみに!

ポテンシャルが高い広島は、伸びしろがある街

広島駅ビル開発という大きなプロジェクトに関わられていかがですか。

竹之内:広島駅ビルのプロジェクトは10年以上前から始まっており、このプロジェクトに関われる人は社内でも一握り。これまでの皆さんの思いが蓄積されているので、良いものにしなければ!という緊張感と責任感を日々感じております。関わっている人も、地元の皆さんも期待してくださっているので、頑張って良いものにしたいと思います。

広島の印象はいかがでしたか。

竹之内:繁華街である紙屋町・八丁堀エリアと、近年再開発が進む広島駅エリアが共存しているイメージです。広島駅ビルが生まれ変わることもそうですが、紙屋町・八丁堀エリアでは、地域一体となった街づくりが精力的に行われており、今後、2つのエリアが互いに刺激しあうことで、さらに発展していく可能性を秘めている街だと感じています。ですが、今は通過型観光が多いのも現状です。駅と観光地(平和記念公園)が近く、泊まらずに完結してしまう。今後は、駅周辺だけでも何時間もいられる、紙屋町や八丁堀でも何かイベントが行われていて楽しめる、そんなエリアマネジメントの取り組みが盛んになると、さらに街の価値が上がるのではないでしょうか。

最後に、どんな広島駅ビルになってほしいか教えてください。

竹之内:広島駅周辺は、再開発等で昔から比べるとかなり変化してきています。それがゆえに、広島の個性や特徴が薄くなったと思われることのないように、路面電車が乗り入れる空間を中心に広島の自然や瀬戸内の雰囲気をデザインに盛り込み、「広島に来た!」と感じていただける空間にしました。屋上広場からは北は山、南は川が見えます。視覚的にも肌感覚的にも広島の原風景を感じる場所になるといいですね。