Blue Signal
July 2006 vol.107 
特集
駅の風景
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
花に会う緑を巡る
西舞鶴駅・東舞鶴駅 駅の風景【西舞鶴駅・東舞鶴駅】
江戸情緒と赤煉瓦の港町
波静かな舞鶴湾の
奥深くにある港町、舞鶴は
西と東でまったく別の顔を持つ。
歴史も文化も、町のようすも異なる
それぞれの舞鶴を訪ねた。
田辺藩・細川家、舞鶴[ぶがく]城の西の町
五老岳(301m)の山頂展望台に立つと複雑に入り込んだ舞鶴湾を眼下に、山を挟んで西と東に分かたれた特徴的な舞鶴の町のようすがよく分かる。東西二つの町はともに港町だが、それぞれに成り立ちも文化も、そして景観も異なっている。

西舞鶴駅を起点にした西地区を象徴しているのは、現在は舞鶴公園として整備されている田辺城跡だ。1580(天正8)年に丹後国を領地とした細川幽斎(藤孝)、忠興親子が城を築き、廃城になる1873(明治6)年までの約290年間、城下町だった歴史を持つ。舞鶴の地名も、田辺城の別称「舞鶴[ぶがく]城」にちなんでいる。

江戸期には海運が盛んとなり、商業の町として栄えた。市内を流れて舞鶴湾に注ぐ高野川沿いの竹屋町を歩くと往時を偲ばせる古い構えの商家が軒を並べ、土蔵や倉庫が静かな川面に姿を映している。高野川の背後の山の裾には、奈良や平安、鎌倉時代に建立されたと伝えられる社寺も多く、西地区のなかでも歴史を感じさせる雰囲気をよく残している。

見上げると稜線のやさしい五老岳が間近に聳える。山の向こうが東地区である。
イメージ
西地区と東地区を隔てるように聳える五老岳頂上の五老スカイタワーから舞鶴湾を望む。眼下には美しいリアス式海岸と舞鶴市街地が見渡せる。
イメージ 舞鶴は日本海側の海運の拠点のひとつとして大きな役割を担ってきた。現在はそんな歴史や文化、豊かな自然を訪ねて年間を通じ多くの観光客で賑わう。
イメージ 西舞鶴駅からほど近い田辺城跡。細川幽斎(藤孝)・忠興父子により築城され、西地区は田辺藩の城下町として栄えた。現在は公園として市民の憩いの場になっている。
イメージ 田辺藩時代、西地区は河川を利用した商業と交易の町として栄えた。高野川沿いには当時の風情の名残りがある。
イメージ 西地区にある桂林寺は室町時代の創建と伝えられる曹洞宗の名刹。この界隈には古社寺が多く、町の歴史の奥深さを感じさせる。
地図
艦船の名が「通り」に生きる東の町
東舞鶴駅に降り立つと、町並みは西地区とは一転して、通りは碁盤目状に整然と区割りされている。駅前から目抜き通りの三条通りを進むと港に出るが、南北の通りに交差する東西の通りに付けられた名称に、東地区の歴史がよく表れている。

駅に近いところから海に向かって「三笠」「初瀬」「朝日」「敷島」…と続く。ほかに「松島」や「高千穂」「出雲」などという名の通りが町中に32もある。三笠とは日露戦争時の日本海海戦における連合艦隊の旗艦の名称である。通りの名を軍艦の名前で呼ぶというのはいかにも舞鶴である。町の中心部には、海側から一等戦艦の建造順に名付けられ、周辺部の通りには巡洋艦、駆逐艦、そして短い通りには木造船の名前がそれぞれ付けられている。

1901(明治34)年に海軍の鎮守府(拠点)が開庁したのに伴い、港湾の整備とともに東地区の市街地も現在のように整然と区画された。その佇まいは、西地区が江戸の風情を伝えるのに対して、明治以降の近代化の歴史を伝えているといってよい。そんな東地区のシンボルで、町の観光の顔ともいうべきものが、随所に見られる赤煉瓦造りの建物である。
舞鶴は、旧ソ連や中国大陸からの引揚者を迎え入れた。東地区にある「舞鶴引揚記念館」では数々の資料を展示。坪井芳子さんはボランティアの仲間とともに見学者に当時を語り継ぐ。「若い方にもぜひ伝えておきたいことです」と話す。記念館近くには引揚者が上陸した桟橋が復元されている。 イメージ
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煉瓦造りの建物は全国一
東舞鶴湾の海沿いに自衛隊桟橋があり、海上自衛隊の艦船が停泊している。その光景は旧海軍時代を想像させるが、この付近の国道沿いには煉瓦造りの倉庫群が点在し、明治・大正時代そのままのようなノスタルジックな雰囲気を漂わせている。

2階建てで棟続きに建つ海上自衛隊舞鶴補給所第2、第3、第4倉庫をはじめ、周辺には壁に蔦が這う煉瓦造りの倉庫や工場が何棟も密集している。現在でも使用されているものが多いが、そのほとんどは旧海軍時代から引き継いだ遺産である。全国でも珍しい「赤れんが博物館」の建物も元は1903(明治36)年建造の旧海軍の兵器廠(魚形水雷庫)であった。

東地区を中心に、舞鶴市内には数多くの煉瓦造りの建造物が残存する。倉庫や工場、事務所やトンネル、水道、要塞や砲台…。舞鶴線にもいくつもの煉瓦造りの橋梁がいまも現役で活躍している。「舞鶴のれんが建造物マップ」によると、大小合わせてその数は131もある。一つの市域に残る煉瓦の建造物の数では全国一だそうだ。

夕闇が迫る頃に、煉瓦造りの建物のいくつかがライトアップされ、闇のなかで赤い煉瓦の壁が一段と鮮やかさを増す。そこに醸し出される港町・舞鶴の異国情緒は、この町ならではの魅力的な個性である。
東地区にある「赤れんが博物館」は全国でも珍しい煉瓦の博物館。煉瓦の歴史や製法の変遷、世界の煉瓦建造物の模型などが展示されている。 イメージ
舞鶴市には旧海軍舞鶴鎮守府の開庁当時に建設された煉瓦建造物が数多く残る。倉庫やトンネルなどは改修・整備され、現在でも利用されているものが多い。 イメージ
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歴史を物語る煉瓦造りの倉庫が立ち並び、ノスタルジックな気分を誘う舞鶴。日が沈むと倉庫群はライトアップされ、幻想的に浮かびあがる。
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