鉄道に生きる

渡邊 一太 大阪電気工事事務所 京都電気工事所 所長

他系統との連携を深め、安全・安定輸送の実現をめざす

 列車に対して、進行・停止といった重要な情報を伝える信号は、鉄道における電気設備の中でも、安全で正確な運行と密接に関わっている。渡邊は入社以来、信号設備全般に携わり、列車の安全・安定輸送を支え続ける。

信号一筋に、電気技術者としての道を歩む

信号設備を正常に制御するための重要な配線作業。自身の目で施工図面を最終確認する。

 渡邊の入社は、1996(平成8)年。学生時代、「電気工学」を専門に学んだという渡邊の最初の配属先は姫路信号通信区だった。以来、多岐にわたる電気系統の中でも、信号における幅広い業務を担い、電気技術者として実績を重ねることになる。当初は、信号機や線路の分岐ポイント(転てつ機)などの保守管理に携わったという。「その日のメンテナンスに必要な機器や工具を準備することから、仕事の基本を覚えていきました」。

 転機を迎えたのは、入社5年目で神戸電気工事所に異動になり、信号設備の新設工事に携わることになった時だ。保全から工事へ。JR京都・神戸線運行管理システム導入における信号工事の担当になったが、当時は工事の進め方はもとより、専門用語も分からず、施工会社からの問い合わせにも満足に答えられなかったという。工事監督として必要な知識を身につけるのに苦労する日々、渡邊をサポートしてくれたのは現場の他系統部門の人たちだった。「分からない点は、軌道や土木、建築系統の人にも質問し、互いの工事のポイントを理解し合うように努めました」。系統間連携をはじめ、配線作業の基となる施工図面の確認の重要性など、安全な工事の基本を一から学んだこの時の経験は、渡邊の今に活かされている。

奈良線複線化の大プロジェクトを率いる

現地の信号機具箱の中のケーブルが、図面と合っているかを夜間作業で確認する。

 2020(令和2)年10月、渡邊は現在の部署に所長として赴任。「電車線」「電灯電力」「信号」「通信」の4系統、総勢24名の所員を束ね、工事監督として奈良線複線化第2期事業に挑んでいる。奈良線は、京都駅と木津駅を結ぶ34.7kmの路線。一部は2001(平成13)年3月に第1期事業により複線化されているが、さらなる輸送改善をめざし、「JR藤森[ふじのもり]〜宇治駅間」「新田[しんでん]〜城陽駅間」などの単線区間が2023(令和5)年春の開業に向け複線化される予定だ。「赴任してすぐの12月6日、まず「玉水[たまみず]〜山城多賀駅間」の2.0kmの複線化切換を完遂しました。今後は、これまで以上に大規模な線路切換が4回あり、所員全員で準備作業を進めているところです」。

 この一大プロジェクトを率い、工事の安全管理や工程管理業務を担う渡邊は、できるだけ多く現場に出向き、施工会社の責任者たちに「困っていることはない?」と声をかけているという。「作業員の方たちが安全に作業を進める上での困りごとを聞き出し、改善できることを拾っていく。遠慮しないで話しかけ、話を聞くように心がけています」と語る。狭隘[きょうあい]で用地も少なく、工事の進捗によって日々環境が変化する難しい現場において、コミュニケーションを深めることで安全な工事の遂行をめざす。

“確認会話”を徹底し、工事の安全を確保する

担当所員と直接会話しながらさまざまな確認作業を行い、細部の安全対策に繋げる。

 コミュニケーションを大切にする渡邊の姿勢は、部下の育成にも表れる。多くの関係者との連携が必要な現場では、ちょっとしたコミュニケーション不足が大きなトラブルに繋がるからだ。特に軌道・土木・建築など他系統との調整時には、自分の言ったことが正しく相手に伝わっているか、しつこいくらいに確認することを部下に促している。渡邊自身もまた、施工図面の最終承認の際は、必ず担当者と直接会話をしながら確認作業を行っているという。「より安全に業務を進めるためには、1歩踏み込んだ確認が重要です。所員には確認会話を通して、安全への意識づけを図っています」。

 安全管理は全社的な重点課題である。大阪電気工事事務所では、重大労災防止を目的に「現場での見える化」を推進する。奈良線の現場では、例えば電柱を新設する際に掘削した穴を柵で囲って「見える化」し、誤って作業員が落ちないよう注意を喚起する。リスクをみんなが共有し、工事に関わる全員の安全を確保するためだ。「事故なく、無事にやり終えてこそ達成感が味わえます。今は苦労も多いが、若手にはぜひやり切ってほしい」。達成感は技術者としての成長の糧になると、渡邊は確信している。

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