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輝く匠

安全・安心を支える技術(第45回)

豊岡列車区 寺前派出 松本 圭司 運転士

1981年国鉄入社。福知山駅、福知山車掌区、福知山指令を経て1999年より運転士。指導操縦者。2017年度福知山支社基本動作優良者輸送課長表彰受賞。出身は沿線の新井地区で、運賃収受の際やホームを歩いている時に地元の知り合いから声をかけられることもあるという。
 

「パターンを教え込むのではなく、自分で考えて運転することが大切だと思います」。松本圭司運転士のモットーは「型にはめない、考える運転」。松本流の教え方を編み出すまでには、お客様からの忘れられない一言と並々ならぬ努力があった。

指令で視野を広く持つこと、他系統への感謝を実感

「国鉄に入った時は運転士になりたかった」という松本は、駅、車掌を経て指令所勤務となった。「指令は常に何かが起こっている印象があり、自分に務まるか不安でした。実際に働いてみると、やることが多すぎて考えが追いつかず処理しきれない、といった感じでした」。列車に指示を出す指令業務はより緊張感があり「大変だと思うことが多くありましたが、『できないことはしょうがない。勉強あるのみ』と言い聞かせていました。無事に1日を終えた時は達成感がありました」と当時を振り返る。指令ではその後に活きるさまざまな経験ができた。「指令は支社管内全体を俯瞰せねばなりませんでしたし、常に先を読んで手を打っていく必要がありました。視野を広く持って先を予測することは運転士になってからも大変役に立ちました。また、列車を動かすために系統が異なる多くの仲間が関わっているのを間近で見たことも、仲間への感謝や尊敬の気持ちを持つきっかけとなり、本当に良い経験ができたと思います」。

「ヘタクソ!」安全と技術の向上のきっかけ

指令を1年半ほど経験し、念願の運転士になった。慣れ親しんだ地元で運転するということもあり、初めて乗務した時は込み上げてくるものがあったという。「地元に貢献している気がして、当時から今も変わらずうれしいです」。

運転士になり1、2年が経ったころ、考え方を変えた出来事が起こった。当時、時間と停止位置を守ることだけに集中していた松本。この日も到着直前に何度もブレーキ操作を繰り返したものの、無事に所定の停止位置に停車させた。一安心しているとお客様が降り際に一言、「ヘタクソ!」。言われた時は頭が真っ白になったが、振り返って考えてみると何度もブレーキをかけたことで車内は揺れ、乗り心地が大変悪かった。「安全は最優先事項ですが、乗り心地を意識した運転を始めたのはこれがきっかけでした」。

そこから松本の運転が変わる。目標は「感じさせない運転」。いつ発車したのか、いつ停まったのかが分からないほどのスムーズな運転を求めた。松本は原点に立ち返り、自分の師匠の教えを思い出した。「師匠は運転技術の向上に熱心な方でした。例えば最初に一気に加速して惰性で走ることと、こまめに加減速を繰り返して走るのとでは、乗り心地や省エネの観点でどちらが優れているか。線路の形や車両の特性、お客様の人数によって最適な運転は変わってきます。さまざまな要素を知り尽くしていなければ最適な運転はできません。私も師匠のように安全かつ快適な運転を研究できるほどの技量を身に付けたいと思いました」。松本は線路の状態や車両など、一から勉強し直した。今では運転の模範として認められ、運転士の教材に松本の運転映像が使われるほどである。

弟子が「瑞風」の運転士に

松本は現在気動車の運転士の養成を行っており、すでに電車の運転免許を持った者が見習いとしてやってくる。「必ず教えているのは、後ろに乗っているお客様を考えた運転をせよ、ということです。皆さんは気動車の免許を取りたいと思ってくるほどなので技術とやる気は申し分なく、少しお手伝いするだけですぐに上達していきます。過去に『ヘタクソ』と言われた私だからこそ、お客様の気持ちを考えるというマインドの部分を教えるのが私の仕事だと思って指導しています」。

そんな松本は、指導者となった今でも知識の習得と技術の向上に余念がない。過去、103系電車を運転するのが嫌だった時期があった。車両ごとにクセがあり、運転してみるまで特性がつかめないことが不安だったからだ。経験を頼りに運転していたが、同じ悩みを持つ若手社員が103系電車を研究しているのを見かけ、ともに研究に取り組んだ。その成果として車両特性を網羅した一覧表が完成し、区所全体のレベルアップに貢献した。「若手には助けられることも多いです。気軽に話ができる風通しの良さが、安全やCSの向上につながっていくと思います」。

「昨年、弟子から『瑞風』の一番列車の運転士に選ばれたというメールをもらいました。うれしかったですね」。弟子の晴れ舞台を見るのは師匠としてこの上ない喜びだと顔をほころばせる。今後の目標を聞くと「まずは、10人目の弟子を育てることですね」。生まれ育った地域を走る松本の精神は次代に受け継がれ、西日本を走り続けていく。

影響を受けた言葉「これで良いか、再確認」

特に誰かから言われたわけではないのですが、国鉄時代から使われているフレーズです。職場で目立つように張り紙がされており、そこにこの言葉が書かれていました。物忘れが徐々に表れ始めたこの年になって心に響くようになった気がしています。「確かスイッチを切ったはず」と思い込んでいたものの、「やはりもう一度見に行こう」と確認するとスイッチが入ったままだったことなど、何度かこの言葉に助けられました。今では運転中も頭の中で繰り返しています。人間は忘れる生き物ですが、それをどうカバーするかが大切だと考えています。

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