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輝く匠

安全・安心を支える技術(第40回)

大阪電気工事事務所 小倉新幹線電気工事所 岡本 岳志 副所長

1994年入社。入社後は在来線電力設備の保守を担い、2001年より新幹線の信号通信設備の保守に従事。その後JR東海への出向を経験し、九州新幹線乗り入れに伴う博多駅工事、山陽新幹線ATC更新工事に携わり、現在に至る。
 

2月18日夜から翌朝にかけて、山陽新幹線 新ATCへの切換作業が行われた。今春のダイヤの目玉でもあるこの切換は、総勢750名の体制で実施された。その中で、ATC装置(地上設備切換)の統括を担ったのが、小倉新幹線電気工事所・副所長 岡本岳志。資料は段ボール8箱になり、数え切れないシミュレーションを重ね当日に臨んだ。この重圧から岡本を支えていたのは、過去の経験と、いつも自分を助けてくれる仲間たちだった。

在来線から新幹線へ

入社当初は米原電力区で在来線の電力設備保守や構内改良工事に携わった。列車見張員や電気が流れている状態での作業を通じて、線路内で作業する怖さ、命を仲間と支え合う大切さを学んだ。

入社7年目、岡本に転機が訪れた。いつか新幹線に携わりたいと思っていた岡本に、新幹線の信号通信部門への異動の話が舞い込んだ。電力系統から信号通信系統に、そして仕組みが異なる在来線から新幹線に異動になり一から仕事を覚えることになった岡本は、自習に加え、少しでも知識を付けるべく新幹線信号エキスパート研修に1期生として参加し、力を付けていった。その後JR東海へ出向、ATC更新工事を経験した。

初めての部下 上司としての心構えは

出向から戻ってきた岡本を待っていたのは、九州新幹線の相互直通運転に伴う博多駅の改良工事だった。九州出身だった岡本は、このプロジェクトに参画することに大きなやりがいを感じたが、部外との工事協定の締結など初めての業務ばかりで、重圧は大変なものだった。さらに、新幹線では久しぶりの大規模工事であり、ノウハウを持っている人材がほとんどいなかったことも追い打ちをかけた。

しかし何より岡本を不安にさせたのは、初めて部下を持ったことだった。これからは部下から判断を求められる立場となる。上司とはどうあるべきか、先輩に助言を求め、本を読みあさった。導き出した答えは「素直になること」「知恵を集めること」。切換工事では頼れる人がいないため、知ったかぶりをせず、最善の策はどのようなものか、何度も関係者と相談を重ね、プロジェクトの完遂のためにまさに総力を結集して臨んだ。

「目的達成のために多くの関係者の思いを一つにする難しさ、ゴールまでの道筋を描いて決めていく難しさを学ぶことができました。いくつも工事を経験しましたが、当時があったから今の私があると思います」と、自身の原点になったエピソードを語ってくれた。

切換当日にトラブル発生 リーダーの役割

無事に博多駅の最後の切換工事を終えた2011年1月、九州新幹線全線開業を目前に岡本は次の職場へ異動となった。待っていたのは、山陽新幹線全駅で実施する全12回にわたるATC-NS装置への取替と、その後の新ATCへの切換。総工期7年、切換工事の回数は12回という大規模なプロジェクトを前に腰が引けたという岡本。しかし今度は過去に経験があり、周りに経験者がいたこともあって、前回よりも幾分不安は和らいだ。仲間の存在とはこれほど大きなものなのだと痛感した。

社内はもちろんJR東海、JR九州との調整など多岐にわたる業務の中で、特に入念に取り組んだのがリスクの洗い出しだった。何度も関係者を集め、時にはメンバーを変えてさまざまな事象を想定し、対策を検討していった。

そして迎えた切換当日。順調に作業が進捗していると思った矢先、ある箇所で正常に切換が行われないトラブルが発生した。新幹線の隣駅から車で復旧機材を取り寄せ、何とか乗り切ることができた。「想定内の事象でしたが、手は震えていました。しかし私が慌てると士気が下がるので、『何とかなる』という雰囲気を作るよう心掛けました。復旧した時は本当にホッとしました」。無事に切換を終えた後、上司から届いた労いのメールを見て、思わず目頭が熱くなったという。

自分たちの仕事ができる感謝を忘れないで

岡本は、「私たちの仕事は、多くの関係者の協力がないと成り立たない上、通常業務に上乗せされる仕事なので、歓迎されないこともあります。だからこそ部下には、意思統一の大切さと協力してくれた方々への感謝の気持ちを忘れないように伝えています」と、あくまで協力があってのことと強調する。どの仕事にも共通することだが、岡本は人一倍感謝の大切さを語る。他人を思いやるその気持ちが、ゴールに向けて部下と協力してくれる多くの人の思いを一つにしている。

参考にしている本は?

『リーダーになる人に知ってほしいこと』(松下幸之助著)、『話し言葉で読める「西郷南洲翁遺訓」』(PHP研究所)を参考にしました。社会人としての基本的なことが書かれているため、部下にも推奨しています。

失敗談をお願いします。

思い込みで答えたことが実は誤りで、作業のやり直しが発生し工期を延ばしてしまったことがあります。判断を急がれることがありますが、確認を徹底するなど、丁寧に仕事をすることを心掛けるようにしました。

「匠」とは?

ナンバー1でなく、オンリー1の存在だと考えています。

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