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匠への道

技術を受け継ぐ旗手たち(第16回)

(株)ジェイアール西日本 金沢メンテック 金沢第二事業所 坪野 直人 次長

(株)ジェイアール西日本 金沢メンテック 金沢第二事業所 坪野 直人 次長

今回訪ねたジェイアール西日本金沢メンテック 金沢第二事業所は金沢駅の駅舎清掃、金沢駅での北陸新幹線車両の清掃を担い、坪野直人 次長はそこで清掃作業の品質管理、教育指導、作業計画の作成などを担っている。

坪野直人の経歴図

「掃除くらい」

デスクワークが中心だが、時間を作って現場にも出向く。

入社してしばらくは駅舎清掃、駅で折り返す列車の車内清掃に携わった。駅、列車内とも常にお客様の目線に触れる場所で絶えず緊張感があり、加えて車内清掃では時間制限があるという、想像していた清掃業務とは全くの別物だった。「正直入社前は『掃除くらい』と、軽く考えていた私は面食らった部分がありました。社内では『見せる清掃』を意識するようにと教わりました。具体的には、きびきびと動くことや身だしなみを整えることであり、自分自身を美しく保つことが必要でした」。

坪野が最も驚いたのは、安全性向上にかける思いだった。その取り組みの一つとして実施されている安全推進ミーティングの中で、階段清掃時に足を踏み外しそうになったことなど日常の清掃時に危険に感じたことを各自が報告し、一つひとつを取り上げ深掘りしていた。「以前勤めていた包装資材会社でも同様の取り組みはありましたが深掘りをするようなことはなく、ましてや清掃業務でここまで徹底的に安全性向上に取り組んでいたことに驚きを感じました」。

重大な事象 社員全員の安全意識を高めるために

2015年3月14日に金沢開業を迎えた北陸新幹線。坪野はその準備にも携わった。開業後における1日の作業計画や人員配置など、多岐にわたる項目を皆で知恵を出して考える日々が続いたが、苦労したのは実地訓練だった。開業前で駅には容易に立ち入れず、新幹線車両も滅多に使用できなかったため、在来線車両を使用しての訓練など、制限がある中で工夫しながら開業に向けた体制を整えていった。

何とか開業を迎え作業も順調に進んでいると感じていた2015年3月31日、忘れられない出来事が起こった。車両に給水する際に使用する給水ホースを車両につけたままで発車させてしまったのだ。幸い大事故には至らなかったものの、お客様に大変なご不安とご心配をおかけした事象だ。「直接的な要因は定められたルールをきちんと守れなかったことです。作業動線を『誰もができる』という前提で作ってはいたものの、実作業の上では複雑すぎたこと、作業に定められているルールと意味がしっかりと作業者に伝わっていなかったことは、作業上の責任者・準備を行った立場からも大きな反省です」。

事象発生を受けすぐに改善に着手。「当社の幹部も職場まで足を運び『起きてしまったことは仕方がない。次にどうすればよいかを皆で考えよう』と声をかけていただきました。いろいろな事象が発生するたびに全員で安全推進ミーティングを実施し、問題を解決していきました。しかし、時間が過ぎるとともに各自の安全に対する意識が薄れている感は否めませんでした」。どうすれば一人ひとりが主体性を持って安全に対する意識を高めることができるのか、それぞれの声に耳を傾けるにはどうすればよいかを考え、それまで講義形式で一方通行で行っていた安全推進ミーティングをいくつかのグループに分け、話し合う形式に変更した。そうすることで、それまで発言しなかった人も発言するようになった。話し合うテーマも、リスクアセスメント、改善活動など細分化して各グループで取り組み、全員で共有する方式に変更した。「実はグループ分けは社員のアイデアです。重要な伝達事項を全員に伝えたり、コミュニケーションの場としても活用しています。社員からもいろいろなアイデアが出るようになりました。現在も社員の声を活かし、マニュアルを柔軟に変更するなどさまざまな改善を実施しています」。事象をきっかけとして、金沢第二事業所は新たな一歩を踏み出した。

金沢開業の経験を敦賀へ

坪野は周囲とのつながり、会話を何よりも重視する。話を聞いてくれるからこそ社員は思ったことを気兼ねなく伝え、一方坪野はそれを真摯に受け止めて必要とあれば直ちに仕事に反映させる。「正直、人材の確保には大変苦労していますが、幅広い年代の社員が集まっており、それは強みだと考えています。多様な社員が自分の考えを話してくれるようになってから、仕事の質が上がっていると思います。おかげさまで私たち清掃の仕事もメディアから注目されています。そんな仕事に携わっている、列車をご利用されるお客様の思い出づくりの一端を担っている、ということを意識して、『掃除くらい』と思わずに仕事に誇りを持って取り組んでほしいと思います」。

2023年春には北陸新幹線の敦賀開業を迎える。「金沢開業時はいくつも課題がありました。敦賀開業時には、少なくとも同じ失敗は繰り返してはいけません。ともに鉄道を支える仲間として、JR西日本グループ一丸となって万全の状態で開業を迎えられるよう、今からできることをしたいと思います」。坪野の目は、5年後の姿をしっかりと見据えていた。

影響を受けた言葉「おかげさま」

社会人になってから現在まで、常に心に置いている言葉です。

自分一人では何もできません。ジェイアール西日本金沢メンテックに入社し指導してくださった先輩、北陸新幹線金沢開業の準備では、通常業務と並行して準備を行うことになり、快く代わりに作業に入ってくれた同僚など、周りの方々の助けがあって初めて自分が居ると思っています。また、周りの後輩が成長し頑張っている姿を見るとこちらが触発され、自分の活力にもなります。まさに「おかげさま」です。これからも、周囲への感謝の心を忘れずに精いっぱい業務にあたっていきます。

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