2017年10月29日、広島駅が新しく生まれ変わった。橋上駅舎となり、日光が降り注ぐ南北自由通路が完成した。同日、その自由通路上に商業施設「ekie(エキエ)」の第1期エリアが開業。第4期まで続く一連の全体計画の店舗開発を担当するのが、万代 雄貴だ。
2010年に天王寺SC開発(株)に入社。SC(ショッピングセンター)の「天王寺ミオ」でのテナントの契約管理業務や営業実績管理などを担当した。
天王寺ミオの新入社員は、SCで働くスタッフが参加する納涼祭の企画・運営を担う。「ちょうど開業15周年だったということで、15周年のお祝いをコンセプトに企画を進めました。ところが上司から『テナントスタッフが求めているものは本当にそれか?』と問われ、開催にあたり最も大切なテナントの声を反映していなかったことに気付きました」。そこでまず店舗のスタッフにニーズの聞き取りを開始。するとイベントとは直接関係のない「社員食堂のメニューが少ない。せっかくならイベントで新メニューの考案を」という意見が複数のテナントから寄せられ、納涼祭当日に投票形式で採用メニューを決定するイベントを企画した。当日は300名を超えるスタッフが参加し大盛況。無事に新メニューも決まり、納涼祭の後に社員食堂で新メニューを食べるスタッフの姿を見て、「少しでも働きやすい環境づくりに貢献できたことがうれしかったです」と喜びをかみしめた。
納涼祭を通じ、テナントの声を聞く大切さを学んだ万代。振り返れば、それこそがSCで働く上での基本だったと語る。「お客様と主にやり取りをするのはテナントの皆さんです。私たちはお客様と直接接することもありますが、テナントとのやり取りが中心になるため、お客様のニーズを把握するにはその声を聞くことが大切なのです」。
2012年からは中国SC開発(株)に異動し、駅ビルのテナント誘致を担当している。「出店交渉の相手は社長であることも多く、初めて一人で出店交渉をした時はとても緊張しました。先方のプロフィールや会社概要をチェックするなど準備はしたのですが不安は全く収まらず、行きの新幹線の中でもひたすら先方の情報をチェックしていました。交渉の時は緊張で汗だくでした」。
万代が忘れられない思い出がある。広島駅ビル「ASSE(アッセ)」に誘致する新テナントを探していた時、広島初となるあるテナントに狙いを定めた。しかし、社内からは「広島エリアの出店を考えていないと先方から聞いている」という反応。何が何でも誘致したかった万代は何とか連絡を取り、先方に自社の資料を送るのに合わせ、広島はどのようなマーケットなのか、出店すれば確実に双方にプラスになることなどを詳細に記した手紙を送った。すると何と、先方の社長から万代に「直接会いたい」と連絡が入った。交渉では「広島の街はあなたの出店を心待ちにしています!」と熱意を伝え、それが実り晴れて出店が決まった。
うれしい話は続き、開業が近づいたある日、通勤電車の中で「あのお店がやっと広島に来るんだって!」と楽しそうに話すお客様の姿を見かけた。「私の仕事でお客様に喜んでいただけたのかと感じると、本当にうれしかったです」。万代の予想は的中し、出店後の売上も好調で過去に同じ区画で販売していた店舗の倍近くの売上を記録した。
現在の万代の業務は「ekie」の第2〜4期の開業に向けたフロア全体の計画策定、呉駅ビル「クレスト」の店舗開発。常に心に留めているのは、お客様が求めることをしっかりと把握し、テナントに熱意をもって伝え、地域に合った店舗をつくること。テナントへのヒアリングに加え、時には店頭で自らお客様にアンケートもするという万代。「エリアによって求められる店舗像は異なります。例えば規模から言えば広島駅は大きなマーケットですが、スーパーマーケットに限ってみれば呉駅の方が売上が大きく、お客様のニーズはさまざまです。店舗、お客様の双方が『出店してよかった』と感じていただけるように最適なSC開発をこれからも続けていきます」。多くのテナントが合わさって成り立つSCの裏には、そこで住む人々の生活を豊かにしようという思いがある。今後も開発が続く広島エリアから目が離せない。