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匠への道

技術を受け継ぐ旗手たち(第6回)

いかなる状況でも「お客様を安全に快適に目的地までお運びできる」運転士を目指す(和歌山支社 紀伊田辺運転区 嶋 智秀 運転士)

和歌山支社 紀伊田辺運転区 嶋 智秀 運転士

「出発、進行!」運転台に、凛とした声がこだました。丁寧かつ迅速に指差確認をするその姿は、見る者に安心感を与える ― 今回の主役は、和歌山の地で指導操縦者として3名の運転士を一人前に育て上げた運転士、嶋だ。

嶋智秀運転士

人見知りで接客に逃げ腰だった駅係員時代、上司や先輩に支えられ一念発起

平成7年に入社した嶋はまず、和歌山駅の営業係に配属された。当初は人間関係と接客業務にとても苦労した、と嶋は言う。「気の合う仲間とだけで過ごせた学生生活から打って変わって、全く知らない上司や先輩に囲まれて仕事をすることに不安でいっぱいでした。また、私は人見知りだったので、仕事が分からなくても誰にも聞くことができず、八方塞がりになっていました」。そのような状況の中、初めて経験する接客業など上手くできるはずもなく、お客様にお叱りを受けるたび、次第に逃げ腰になってしまったという。

「しばらくは後ろ向きの気持ちのまま過ごしていたのですが、そんな私にでも、上司や先輩が常に『頑張れ、頑張れ』『大丈夫、気にするな』と声を掛けてくれました。何かと私を助けようとする皆の思いに応えるためにも、『このままではいけない』と気持ちを奮い立たせ、自ら積極的に質問したり、しんどいことにも進んで取り組んだりするよう心掛けました」。その結果、人間関係も良くなり、接客業務も上手くできるようになった嶋は、「当時の上司と先輩がいなければ今の私はありません。とても感謝しています。この時の体験から『いつか自分も、後輩社員を助けることのできる人間になりたい』と思うようになりました」と述懐した。

運転士となった当初、気の緩みが原因でミスをしてしまったが、今ではこの経験が宝物に

その後運転士となった嶋は、独り立ちして1年ほど過ぎた頃に、確認不足で停止位置を間違えるミスをしてしまった。「ホームのお客様が、待っている場所と異なる乗降口まで移動し乗車される姿を見て『お客様に大変なご迷惑をお掛けしてしまった』と心苦しくなりました。あの光景は今でも忘れることができません」。

しかし、今ではこの経験が宝物になっているという。「初めは、自分がミスをしたことを認めたくありませんでしたが、原因を追究していくうちに『ミスと向き合うこと』の重要性に気付きました。そこで、徹底的にミスと向き合い反省し、リスクやその対策を考えました。こうして得た教訓は、今でも私の糧となっています」。と言う嶋は、続けて「特にメンタル面に関しては、実際にミスを経験した者にしか分からない面があります。そこで、後輩運転士が前向きに考えることができるように、『過去のミスを教訓にし、糧にすることで、ミスは必ず自分の宝物になる』いうことを伝えるように心掛けています」と語った。

少しでも「匠」に近づけるように、職人技を磨くことにこだわる

この先に自身が求める運転士像について尋ねると、「運転士の『匠』とは、安全を運ぶ職人技を持つ人だと考えています。運転士の職人技というと『上手なブレーキ扱い』や『停止位置にピタリと止める』などを思い浮かべると思いますが、私が考える職人技は『質の高いルーティンを行う』ことです。具体的には、基本の厳守は当然のことながら、強風時は『架線に飛来物はないか』『線路に倒木はないか』、雨天時は『空転・滑走はないか』『土砂崩れはないか』などの危険を予期し、事故を未然に防ぐための運転をしたり、異常時には落ち着いて迅速に対処したりするなど、いかなる状況においても普段どおり『お客様を安全に快適に目的地までお運びできる』ということです」。と述べ、「このような『匠』に少しでも近づけるよう、毎日毎日の業務でその職人技を磨くことにこだわりたいです」と熱く語った。嶋の「匠」への挑戦は、これからも続く。

  • 見習い運転士とともに前部標識を確認
  • 乗務終了後は見習い運転士と反省会を開く

期待の一言

紀伊田辺運転区
後 由文区長

嶋運転士は、和歌山支社管内全ての運転職場を経験し、全ての受け持ち線路を知り尽くしています。各区所に彼が育てた「弟子」がおり、彼の意思を継いで活躍しています。また、紀伊田辺運転区を有名にした区報「タウン(田運)ページ」の発案者でもあります。乗務前の同僚や若手に的確なアドバイスを送る姿と、常日ごろから自己管理、自己研鑽を怠らない姿に感心しています。

「これまで培った匠の知識・技能に加えて、「責任感・チャレンジ精神・コミュニケーション能力」も若い世代に継承してくれることを期待します。

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