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輝く匠

安全・安心を支える技術(第30回)

柔らかな物腰と静かな闘志が同居する新幹線運転の第一人者(新幹線管理本部 広島新幹線運転所 土井 良友 技術主任運転士)

新幹線管理本部 広島新幹線運転所 土井 良友 技術主任運転士

匠プロフィール
昭和51年国鉄入社。広島で電気機関助士、電車運転士、電気機関士などに従事した後、昭和62年に新幹線運転士となる。指導操縦者としてはJR九州の運転士を含む4名を育てた。平成20年からは技術主任運転士となり、次世代への技術指導も行う。現在は、新幹線管理本部運輸課と大阪、広島、博多の3区所合同による「節電運転ワーキング・グループ」のメンバーとして、節電運転マニュアル(ECOCA:エコカ)の作成・水平展開を行うなど、約28年にわたり新幹線運転の第一線で活躍している。
 

通常の乗務のほか、他の運転士が運転操縦する列車に添乗するなどにより技術指導を行う「技術主任運転士」。土井は、新幹線運転士の中で2人しかいない「技術主任運転士」の一人だ。

己の運転を「見せる」ことで次世代に「気付き」を促す

土井は月の半分ほど添乗指導を行っているが、そこで技術的なアドバイスはしない。「運転士はそれぞれの時間計算や加減速のタイミング、ブレーキ操作などにプライドを持っています。頭ごなしに『こうした方が良い』と指摘すると、その人を否定することにもなりかねません」。土井は、添乗区間が長い時は運転を代わり、自らの運転操縦を見せる。「私が若い頃は他の運転士の運転操縦をそばで見る機会に恵まれており、良くも悪くも『気付き』を得て己の運転操縦の引き出しを増やすことができました。今は、見習い時を除けば、他の運転士の運転操縦を見ることはほとんどありません。そこで、後輩の運転士が若い頃の私と同様に何らかの『気付き』を得るきっかけになれば、と思っています」。

「余裕時分の把握」を重視

ミレニアムイベントとして運行された「ひかりレールスター21世紀号」や「0系さよなら運転」の運転士に選ばれるなど、運転操縦に定評のある土井。いつも心掛けているのは「余裕時分の把握」だ。「新幹線は列車ごと、駅間ごとにさまざまな余裕時分が付与されています。余裕時分が異なると運転操縦も異なってくるので、乗務の都度なるべく早く余裕時分を把握することが大事です」。そのためのツールとして、運転士になってから27年間、毎年「行路別余裕時分表」を作成し所内に掲出している。この表を乗務カードに装着すると、各列車の駅間余裕時分が一目で分かるようになっており、見間違いや勘違い防止の便利ツールとして、広島の運転士の多くが活用している。

思い込みの怖さを知った失敗談

そんな土井にも苦い経験がある。「平成18年ごろ、東海道新幹線のデジタルATC化に伴い、上り運転における新大阪駅構内の運転操縦方法に変更が生じました。そこで、習熟のために回送列車を運転した際、40秒程度早発してしまいました。最初のタイミングで時計を1分見間違えたのですが、その時間が正しいものだと『思い込んで』しまったのです。その後の基本動作もしっかり行ったにも関わらず、間違いに気付かなかったことが余計にショックで、あらためて『思い込み』の怖さを思い知らされました」。

さらに安心、信頼していただき、愛される新幹線に

添乗中の一幕。運転士から質問を受ければ丁寧に応える。

土井は言う。「『新幹線は自動運転で踏切もなく、運転は楽でしょう』と言われることもあります。でも決してそんなことはありません。一見平坦な線路も、速度に影響が出るくらいアップダウンしています。その中で、定時で到着するために駅間の適正速度を繰り返し計算しつつ、節電のための効率的なノッチ扱いや乗り心地を意識した衝動防止運転などを意識しながら運転しています」。

そして、「そうした運転操縦方法を後輩たちに伝えることで、さらにお客様に安心、信頼していただき、みんなから愛される新幹線を築き上げていきたいと思います」と静かに、しかし力強く語った。

未来の匠

杉野 晴崇

土井技術主任運転士は添乗時に疑問点を投げかけると、いつも理論的に優しく、丁寧に指導してくれます。今も私の心に刻まれている土井技術主任運転士の言葉に「プロの運転士ならプラスマイナス0秒で列車を次の駅に停車させるんだ」というものがあります。何気ない会話をしていてふと聞いたのですが、長年の経験で得られた「ベテランの言葉の重み」を感じました。私も土井技術主任運転士のように、技術・技能の向上に向けて日々努力する「匠」になれるよう頑張ります。

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