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輝く匠

安全・安心を支える技術(第8回)

最良の解決策を導き、最後まで確実に実行する(新幹線管理本部 東京指令所 運用指令 及川 馨)

新幹線管理本部 東京指令所 運用指令 及川 馨

匠プロフィール
昭和49年、日本国有鉄道に入社。新幹線の車両検修、運転士の経験を積み、平成4年から東京指令所で指令業務に就いた。平成16年から3年間、大阪新幹線運転所で助役として活躍し、現在は東京指令所の運用指令で主に若手社員の教育に力を注いでいる。

新大阪から博多まで、約500キロの距離を東西に貫く山陽新幹線。その運行管理は、新大阪から東に約500キロ離れた東京で行われている。今回の匠は、東京指令所で運用指令として活躍する及川だ。

指令員までの道のり

盛岡で育った及川は、高校を卒業後、親元を離れ、昭和49年に国鉄に入社した。大阪運転所に配属され、モーターやブレーキ、輪軸など台車整備に従事し、早く一人前になろうと先輩の背中を見ながら必死に勉強した。

入社から約半年が経過したころのことだ。山陽新幹線の博多開業を翌年に控え、先輩の多くが博多総合車両所に異動し、及川たち新人が職場の過半数を占める状況となった。及川自身、不安感や危機感を感じながらも「自分たちが新幹線の安全・安定輸送を守る」という強い気持ちで業務に向き合った。限られた時間の中で、可能な限り念入りに点検することで、それまで年間数件発生していた油漏れや機器の故障が明らかに減少した。及川は、仕事への責任感が組織を強くすることを学んだ。

その後、及川は運転士となり、東京〜博多駅間の運転に携わった。車両と常に向き合ってきた及川は、人一倍、0系新幹線への愛着が強かった。乗務前には必ず手を洗い、「今日もよろしく」との思いを込めて車両を撫でるのが習慣だったという。

指令での経験と学び

平成4年、車両の検修と運転士の経験を買われ、及川は東京指令所の運用指令に配属された。車両や運転の知識・技術には絶対の自信がある。しかし指令で求められるのは、西日本エリアを運行するすべての新幹線の状況を一度に把握する力であり、車両故障の際に、車両や乗務員の運用変更などを瞬時に判断し、複数の関係箇所と並行して調整する力だ。指令業務に慣れるまで、相当の苦労があった。

また、及川は、指令員には高い感度と熱い思いも必要であることを実感した。300系車両が運用を始めたころのことだ。複数のお客様から車両の乗り心地に関するご指摘の声があった。最善の検査を行い、運用の継続を決定したが、翌日、その車両に機器の不具合が発生し、輸送障害につながってしまった。「あの時、強引にでも強いこだわりをもって詳細な調査を実施していたら…」。指令員として、自分の指示に責任とこだわりを持つことの大切さを学んだ。この経験を生かして、「危ない」と思ったら、誰が何と言おうと列車を止める判断をすることを肝に銘じ、後輩にも伝えてきた。

指導する立場となって

及川は、机上の指導にあたり、車両の検修経験のない社員には、写真を用いて具体的にイメージさせながら話を進めるとともに、自身の経験を、時には失敗談もひもときながら、相手に少しでも興味を持たせるよう努めている。

また、実務における指導にあたっては、失敗はその都度、原因を徹底的に分析する反面、リスクの芽を未然に防いだ時は、しっかり褒める。及川は言う。「指令は安全に運行されて当たり前だが、そのためには並々ならぬ努力をしている。泥臭い、目立たない、と感じるような指令手配でも、それが事故防止につながるのならば積極的に褒めたい」。

冷静に、複数の選択肢から最良の解決策を導き、責任を持って最後まで確実に実行する−そんな指令員を養成するため、及川は今日も走り続ける。

  • 車両の写真を開いて、聞き手が具体的にイメージできるよう指導。
  • 教育用ドリルを用いて指令業務のイロハを継承。
  • デスクでもコミュニケーションを大切にしている。

未来の匠

吉川 哲史

及川さんは、真面目で厳しい方です。特に確認することにこだわっておられます。運行が乱れた場合でも、メンバー全員の状況を把握して指示を出してくれるので、全員が落ち着いて対処できます。私も及川さんのように指令員としての経験を積み、自信を持って指令業務に臨めるようになりたいと思います。

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