鉄道に生きる

川本 啓司 和歌山土木技術センター 助役

工事の安全性を追求し鉄道を支える

頻繁に工事現場に足を運び、進捗状況を確認。

 工事現場で「お疲れ様。けがをしないようにね」と作業員に優しく声をかけるのは、和歌山土木技術センター 川本啓司 助役だ。車を運転する若手社員にも「ゆっくり、周りをよく見て。焦らなくていいぞ」と周囲に注意を促す川本の言葉からは、仲間を思いやる気持ちが強く伝わってくる。

「おかえりJR」地域の願いに応えた工事

 1981(昭和56)年に国鉄へ入社し、和歌山保線区和歌山支区作業班(現 和歌山保線区)に配属され、14年にわたり線路修繕などの保線業務に従事。転機となったのは1995(平成7)年に和歌山施設区に異動となり、土木担当になった時。「土木担当になってからは『この橋りょうは○○さんの担当』というように個人で特定の設備を担当するため、より責任を重く感じました」。

 土木の担当になって16年が経った2011(平成23)年6月、和歌山土木技術センターに異動となった。その3カ月後、台風12号が日本列島を襲う。台風の接近に備えて職場に詰めていた川本に「那智川橋りょうが流された」と連絡が入る。「嘘だ」と耳を疑ったが、その後も盛土の崩壊やバラストの流出などの被害の連絡が寄せられ、現実なのだと思い知らされた。

 台風の被害は甚大で「少なくとも年内の復旧は難しいとされていました。しかし、地元の方々から何とか年内には復旧してほしいと強い要望などもあり、いかに安全に早く復旧できるかを関係者間で何度も検討を重ねました。多くの方々の協力のおかげで、約3カ月後の12月に全線開通を実現することができました。作業中に地元の方から『お疲れさん』『ありがとう』と声をかけていただいたり、開通時に地元の皆様が石で砂浜に書いてくださった『おかえりJR』の文字を見た時は、本当にうれしかったです。ただ、全線が開通した後も一部の区間では徐行規制が敷かれており、私としてはその規制が終わった時にようやく落ち着いたように感じました」。

作業員の安全が工事の基本

グループ会社などと入念な打ち合わせを繰り返し、細かな工事の計画をたてる。

 橋りょうやトンネルなど、長年使い続けることになる土木構造物は、言うまでもなく相応の安全性が担保されていなければならない。川本は常に「何を担保に安全と言えるのか」を部下に聞き、また自問して答えを探す。「過去の工事を踏まえ『安全だ』と言う場合もありますが、それは安全の根拠にならないと思います。何をもって『安全だ』と言えるのか、突き詰めて考えるように指導していますし、私もそう考える癖をつけています。構造物そのものの安全性はもちろんですが、作業する作業員の安全も確保されていなければなりません。安全に工事ができなければ、鉄道の安全は守れません」。

安全の根底を成す会話術

自分の体験を包み隠さず伝え、同じ失敗をしないよう促す。

 工事にはグループ会社、協力会社など多くの人が関わるため、全員が作業内容をしっかりと理解しなければ安全に作業を進めることはできない。川本が関係者の安全への意識を高めるために行っていることがある。「工事が始まる前に行われる打ち合わせで、私が過去に経験したヒヤリハットなどの失敗を話します。その上で『あなた、仕事でけがをしたことある?』と聞くんです。そうすると一種の恥ずかしさが消えるのか、『そういえば私も』と皆からヒヤリハットなどの体験談が次々と出てきます。そうした話を共有し、同種事象を起こさないように話し合い、安全なのかを納得のいくまで話し合います」。

 安全を皆で築くために意見を交わせる環境づくりに取り組んでいる川本は、その根底を成すのは日々のコミュニケーションだと語る。「日々の作業が安全に行われ、設備の安全性が担保されるために本当に必要なことは、日ごろから互いに何でも言い合える関係でいられることではないかと思います。私が自分の失敗を話すのはそのための工夫の一つですが、誰にでも何でも言える雰囲気が『他にリスクはないか』など互いに注意し合える関係に繋がり、安全の土台になると思います」。

 工事現場で気軽に川本に話しかける協力会社の社員や、資料を持って川本に相談しにくる若手社員の姿を見て、確かに川本は自身の言葉を体現しているのだと感じた。

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