旅の味めぐり 駅弁

柿の葉ずし

◎東海道本線・東海道新幹線・山陽新幹線/京都駅・新大阪駅・大阪駅ほか

清々しい香りとともに現れる小ぶりの押し寿司。「柿の葉ずし」は、奈良・五條に受け継がれる伝統の味だ。その昔、熊野灘から運ばれる塩さばを酢飯と合わせ、身近にあった柿の葉で包んだハレの日のごちそう。先人の知恵が息づく山里の滋味は、関西を代表する味として、多くの旅人を魅了する。

柿の葉のほのかな香りに包まれる郷土ずし。

柿の里ならではの野趣を包む

五條市賀名生梅林

 奈良盆地の南西部に位置し、古くから大和と紀州、熊野や伊勢を結ぶ交通の要衝として栄えた五條市。北には金剛山が聳[そび]え、東は大峰山脈、南には吉野三山と呼ばれる山地が連なる自然豊かな山間のまちだ。市の中心は、大台ヶ原を水源とする吉野川が西流する。柿の産地として名高く、標高100mから400mの傾斜地では良質の柿が栽培され、生産量日本一を誇る。

 「柿の葉ずし」は、主に五條や吉野地方に伝わる家庭料理で、江戸時代の後期、文久年間にはすでに作られていた歴史を持つ。その昔、南紀熊野の漁師がさばを塩で締め、吉野川沿いの村に売りに来た。海から遠く離れたこの地域では、さばは貴重なタンパク源。はるばると運ばれてきた塩さばを薄い切り身にして酢飯に乗せ、裏山の柿の木の葉で包んで一晩重しをかけたのが始まりと伝えられる。大切な海の魚を1日でも長く食べるための知恵が生んだ山里の保存食。以来、夏祭りのごちそうとして振る舞われるなど、ハレの日の食として家々の味が受け継がれてきた。

 柿の葉ずしに用いられるのは、平核無[ひらたねなし]や刀根早生[とねわせ]などの渋柿の葉だ。緑色が鮮やかで抗酸化成分のタンニンが多く含まれ、防腐・殺菌効果に優れているという。また、甘柿に比べて葉も柔らかなため、寿司を包むのにも適している。葉で包むことで空気を遮断して保存性を高め、さらにご飯の乾燥を防いで風味を保つ効用もあるそうだ。何より、さばの旨みと柿の葉の香りがご飯にしみわたり、奥深い味わいを醸し出す。伝統の郷土食は、柿の里に息づく豊かな食文化を物語っている。

旅人にも人気の自慢の味

 一つひとつほどよい大きさに包まれた柿の葉ずしは、手軽さや食べやすさから、駅弁としても人気が高い。五條市に本社を構える株式会社 柿の葉ずしヤマトでは、京都駅構内から販売を始め、現在は新大阪駅、大阪駅、芦屋駅、新神戸駅など、在来線や新幹線の主要駅で郷土自慢の味を提供する。創業は、1969(昭和44)年。当初は給食事業を手がけていたが、地元で食べ継がれてきた味を伝えたいと、柿の葉ずしの製造を開始した。厳選された素材で作る味わいにはリピーターも多く、今では社名にその名を冠する柿の葉ずしの銘店だ。

 米、魚、そして柿の葉。シンプルな素材の組み合わせだけに、寿司づくりには吟味を重ねたこだわりの原材料が用いられる。具材の中心であるさばは、水揚げされた脂の乗ったさばを、鮮度を保ったまま塩漬けにして直送。工場で酢締めにして使用している。合わせる米は、粘り気と旨味のある新潟県産コシヒカリだ。玄米で仕入れ、独自に精米することでご飯のおいしさを追求するとともに、少し甘めのすし酢の配合によってヤマトならではの味に仕上げるという。また、葉で包む作業は、創業当時からの“手づつみ製法”。6月〜8月にかけて収穫される柿の若葉は、しなやかだが大きさは不揃いだ。人の手と目で包み残しをカバーし、昔ながらの味を丁寧に守り続ける。

 定番のさば、さけに加え、新しい味を求めるお客様の声から、海老や穴子など、具のバリエーションも広がりつつある。柿の葉を開く楽しみとともに、ひと味違った味わいで旅人を出迎える。

駅の名物が関西の多彩な食文化を競い合う

大阪のトンテキ弁当〔淡路屋〕

大阪駅界隈で流行りの豚肉のステーキを醤油飯の上にどかっと盛り付けたボリューム満点の駅弁。遊び心にあふれたド派手なパッケージにも大阪らしさが。
〔価格:1,050円(税込)〕

春旬たけのこ御飯〔淡路屋〕

たけのこ型の容器に、たけのこ煮、湯葉包み揚げ、菜の花、桜餅など、京の春をテーマにした味覚が満載。五感で春を味わう華やかな名物弁当。
〔価格:1,000円(税込)※春季限定(2月〜5月)〕

〔価格は全て2018年2月20日現在〕

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