鉄道に生きる

喜村 英典 運輸部 動力車操縦者養成所 兼任教師

運転士の養成を通じ、お客様の安心と信頼に貢献する

メモと付箋で埋められたテキスト。いわば喜村専用の参考書だ。

 「講習生は多くのことを吸収したいとの思いでさまざまな質問をしてくるので、その思いに応えるために必死です」と、メモと付箋で埋められたテキストを見せてくれたのは、運輸部 動力車操縦者養成所の教師 喜村英典。父も勤めていた運転士を育てる動力車操縦者養成所の教師に憧れ、見事その夢を叶えた。

仕事に対する姿勢は−お客様からのお叱りを受けて

 最初の配属は新大阪駅だった。みどりの窓口での業務を担当していた時、経路が分からずお客様が希望するきっぷをすぐに発券できないことがあった。本来は同僚や上司に助けを求めるべきところ、意地を張り自分で何とかしようとした結果、お客様を長時間お待たせし大変なお叱りを受けた。「お客様のことを考えれば、取るべき行動は明らかでした。お客様本位の仕事をすべきなのに、自分本位の仕事をしていました」。仕事に対する姿勢を変える出来事だったと、当時を振り返る。

「基本動作の意味」「データ7割・勘3割」

かつて敦賀で出会った師匠とは縁があり、今は同じ職場で働いている。

 その後車掌を経て運転士の道を歩んだ喜村。見習運転士の時、師匠から仕事を通じて教わったことで、自分なりに理解できたことがある。

 それは、最初の師匠から丁寧に教え込まれた指差喚呼[しさかんこ]などの基本動作。ある時、「確認したはずの信号が印象に残っていない」と、「意識レベルが低下した自分」に気付くことができた。この経験から、「丁寧な基本動作の継続は、いつもとは違う危険な状態にいち早く気付き、意識レベルを上げ、安全を守るための行為なのだ」という考え方にたどり着いた。

 もう1つは、「データ7割・勘3割」。データとは車両、駅の特徴や天候、乗車率といったものだ。転勤後、敦賀で出会った新たな師匠は、勘に頼りすぎない運転操縦を行うため、多くのデータを集める重要性を説き、環境が変化する中でも常に安定した運転操縦を体現していた。師匠のそばで喜村は言葉の重みを感じ取り、教師となった今も、この言葉を講習生に繰り返し伝えているという。

3つの教え 安心してご利用いただける鉄道を目指して

シミュレータで標識の見方などを解説する。

 喜村は現在、動力車操縦者養成所の教師のほか、シミュレータなどの教育設備の投資を担当する。「運転士のためになることがしたいのです」と話す喜村だが、その根底には、責任感と誇りを持った運転士を育てることが、お客様の安心と信頼に繋がる、という思いがある。その思いの実現のため、喜村は次の3つを大切にしている。

 1つ目は、運転士の心構え。「運転士は、いろいろな箇所の多くの方々の努力があって初めてお客様を目的地までご案内することができます。そのことを忘れずに、お客様の尊い命をお預かりしている職責の重さを感じながら仕事をしてほしいと話しています」。2つ目は、運転法規へのこだわり。「『決まっているから』『明記されているから』とただ覚えるのではなく、根拠を知り、生きた知識とすることで自信がつき、何事にも落ち着いて対応できます」。3つ目は、前述した「データ7割・勘3割」だ。「勘も大切ですが、データは必ず自分を守る武器になります」。誰よりも喜村がその大切さを知っているからこそ、データを活用し安全・安定な運転操縦ができるプロの運転士のカッコ良さを講習生に伝え続けている。

「努力に即効性はない」地道な努力が実になる

 喜村は続ける。「運転士という仕事は、すぐに努力が報われない職業だと思います。『努力に即効性はない。何年後かに差が出てくる』という野村克也氏の言葉がありますが、地道な努力こそいつの日か実になります」。

 卒業生から、「この間『データ7割・勘3割』の意味が少しだけ分かりました。難しいですが必ず実現します」という声を聞いた。「とてもうれしかったです。教師冥利に尽きます」と顔をほころばせた喜村。彼が見据えるのは、運転士がお客様から笑顔をいただく姿だ。

※指を指し、声を出して安全を確認すること
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