旅の味めぐり 駅弁

桃太郎の祭ずし

◎山陽新幹線・山陽本線/岡山駅

ピンク色の桃型の容器にぎっしりと詰まった山海の幸。郷土料理「ばら寿司」を駅弁に仕立てた「桃太郎の祭ずし」は岡山を代表する駅弁のロングセラーだ。酢飯と具材で構成されたシンプルさの中に地元名物が凝縮されているのが人気の理由。
祭りのような賑やかさで、旅の楽しさをいっそう盛り立てる。

ユニークな容器で味わう、海の幸と里山の恵みの競演。

倹約令から生まれた名物料理

 温暖な瀬戸内海に面し、背後に中国山地を控える岡山県は、海の幸・山の幸に恵まれ、豊富な食材を使った郷土料理が数多く伝わっている。祭りには欠かせない料理として、古くから愛される「ばら寿司」もその一つ。新鮮な魚介や四季折々の野菜を酢飯に盛り合わせ、祝いの席や来客へのもてなしなど、ハレの日の食として親しまれてきた。

 「ばら寿司」の誕生は、江戸時代の初期に遡る。備前岡山の初代藩主 池田光政は、厳しい藩の財政から自らも質素倹約を心掛け、「食膳は一汁一菜」というお触れを出して庶民たちの贅沢を戒めた。これに反発した庶民は、たくさんの魚や野菜を混ぜ込んだ寿司飯を作って「一菜」としたのが由来。倹約令をかいくぐるための工夫から生まれたといわれている。江戸時代の半ば頃になると、家々で工夫を凝らした寿司が祭礼時に振る舞われるようになり、一升の寿司を作るのに一両もの大金を掛ける商人も現れ、「鮨一升、金一両」といわれるほど豪華になっていったそうだ。

 酢飯に具材を混ぜ込み、一つひとつ味付けした山海の幸をさらに飾る手の込んだ寿司は、現在も岡山の名物料理だ。ご飯の上にバラバラと具をのせることから、地元では「ばら寿司」と呼ぶ郷土の味は、やがて関西方面へと広がり、今や全国で食べられている「ちらし寿司」のルーツになったと伝わっている。

時代を超えて、旅の思い出に寄り添う

 「桃太郎の祭ずし」は、そんな岡山が誇るご当地寿司を駅弁に仕立てたものだ。製造しているのは、市内に弁当工房を持つ三好野本店。岡山駅をはじめ、新大阪と博多を結ぶ山陽新幹線の車内などで駅弁を販売し、旅や出張の食を支えている。

 三好野本店の歴史は古く、前身は1781(天明元)年創業の米問屋という。当時は津山藩松平家に仕え、藩米を取り扱う蔵元を務めていたそうだ。明治時代には高級旅館「三好野」を営み、1891(明治24)年の岡山駅の開業と同時に、構内に支度所という飲食を伴う待合所を開店した。そこで、奈良漬を添えたにぎり飯を売り出したのが駅弁を始めるきっかけに。以来、120年以上もの伝統を誇る駅弁の老舗だ。

 数々の旅の弁当を手掛ける中で、ご当地色を出すために目をつけたのが郷土料理の「ばら寿司」。家庭では酢飯に干ぴょうやしいたけなどの具を混ぜ込むが、これでは劣化が早くなってしまう。そこで酢飯の上に具材を並べるようにし、本来の「ばら寿司」とは差別化するため、「祭ずし」の名で販売を開始した。その後、岡山らしさを追求し、桃太郎の伝説に因んだ桃型の容器を開発。名前も「桃太郎の祭ずし」に変えて今に至る。観光客はもとより、地元の人にも愛される「桃太郎の祭ずし」は、岡山駅構内では1日300個が売れる看板商品。1963(昭和38)年の販売から、50年以上もロングセラーを続けている。

【目にもおいしい具材たち】

酢飯を飾るのは、①鰆の酢漬け②たこの酢漬け③酢れんこん④も貝煮⑤ままかりの酢漬け⑥海老煮⑦錦糸玉子⑧紅生姜⑨菜の花醤油漬け⑩しいたけ煮⑪たけのこ煮⑫小鯛の甘酢漬け⑬穴子煮の計13種具材のラインナップは、味のバランスや彩りはもちろん、お客様の声も参考にしながら数年ごとに見直すそうだ。酢締めの具材が多いが、甘めの酢飯との相性は絶妙の味わい。寿司酢の配合は、発売当初から受け継がれている三好野オリジナルという。
〔価格:1,000円(税込)〕

食べ比べも楽しい、地元の特産品をふんだんに盛り込んだ人気駅弁

千屋牛と松茸のわっぱめし

県北部の自然豊かな環境で育てられる伝統の黒毛和種「千屋牛」。岡山が誇る最高級の牛肉と松茸や栗の甘露煮など、山の幸を贅沢に盛り合わせた逸品。
〔価格:1,480円(税込)〕

山陽新幹線40年旅物語せとうち日和

「晴れの国」岡山の魅力を多彩な郷土料理で表現した山陽新幹線全線開業40周年の記念弁当。県産豚の唐揚げ、あなご飯や赤米のおにぎりなど、昔ながらの地元の味が楽しめる。
〔価格:1,000円(税込)〕

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