鉄道に生きる

小室 美喜 株式会社ジェイアール西日本フードサービスネット 岡山列車営業所アシスタントインストラクター

笑顔でお客様に寄り添い心に残るサービスを提供する

グリーン車におけるおしぼりやブランケットの配布は、チーフパーサーが受け持つサービス。また、進んで車窓からの景色をご案内するなど、お客様とのふれ合いにも心を込める。

サービスの最前線を担う誇り

研修では、講師を務め後輩を指導する。厳しいだけではなく、褒めることでモチベーションを高めるよう、心掛けているという。

 「ご乗車ありがとうございます」の言葉を笑顔に添えて、車内でお客様サービスにあたる新幹線パーサー。新大阪駅から博多駅を結ぶ山陽新幹線に乗務し、乗車口でのお客様のお迎えをはじめ、ワゴンでお席に伺う車内販売、車内放送でのおすすめ商品のご案内など、列車内でさまざまなサービス業務にあたる。小室は現在、パーサーの業務に加えてグリーン車サービスを担当するほか、アシスタントインストラクターとして、同乗するパーサーの指導を行っている。入社は、九州新幹線が全線開通し、山陽新幹線との相互直通運転を開始した2011(平成23)年3月。以来、「のぞみ」「みずほ」「ひかり」「さくら」という“職場”で経験を積み、山陽新幹線のサービスの最前線で接客技術を磨いてきた。目指しているのは、お客様に喜んでいただけるおもてなし。「もっと、こうすれば」という向上心と、持ち前の負けん気の強さで、日々努力を重ねる。

 岡山駅にほど近い、新幹線を望む沿線で育ったという小室。小学校の通学路からいつも走る姿を見ていた新幹線は、慣れ親しんできた乗り物だ。その新幹線に乗り、幅広い人とふれ合うことができる業務に魅力を感じてパーサーを目指した。乗務中には緊張する場面もあるが、「お客様とコミュニケーションできる時間が何より楽しい」と語る。

最高のおもてなしでお迎えするために

ワゴンの商品は、列車の団体情報や曜日ごとの売れ筋商品をまとめた「情報シート」を参考に、パーサー自身が工夫して積み込む。

 パーサーの仕事は、新幹線に乗務する前からすでに始まっている。制服を着こなし、化粧も含めて、サービスの最前線に立つにふさわしい姿に整えるのも大切な仕事。口紅の色にも決まりがあるが、小室は「規定の赤い口紅をつけると、スイッチが入る。パーサーとしての自覚、そしてお客様に働きかける積極性が出てきます」と微笑む。

 車内販売サービスのためのワゴンへの商品のセッティングも、乗車前の重要な業務の一つ。1日のうちでも、時間帯によってお客様が求める商品は違ってくる。列車ごとにワゴンに積み込む商品をどう工夫するかは、パーサーそれぞれの判断に任されている。「朝はビジネスでご利用のお客様向けにコーヒーを多く積み込みます。また、新大阪駅から下る場合は大阪名物を、上りの岡山駅からは『きびだんご』を前面に出すなど、出発地でのお土産物の買い忘れに対応し、陳列も入れ替えます」と話す。お客様のニーズを先読みし、席に伺う時には最高のサービスが提供できるように。そのため、乗務前のミーティングでは、同乗するパーサーとともに、指定席の座席数や団体のお客様情報などを確認し、車内の回り方もきめ細かく打ち合わせしておくのだという。

 こうして準備を整えて乗り込んだ新幹線車内が、パーサー業務のいわば本番。揺れる車内でお客様の安全を確保しながら、100kg以上もあるワゴンを押すのは、かなりの重労働だ。さらに、グリーン車担当の小室には、おしぼりを配布したり、お客様の降車に合わせて座席を整え、次のお客様に備えたりする業務も加わる。もちろん、他のパーサーへの目配りも欠かせない。「入退室の基本動作ができているか、レシートのお渡し漏れがないか、基本手順を徹底させます。“事故”を未然に防ぐため、時には嫌われ役になることも必要です」。

お客様の旅のひとときに寄り添う

「ご案内する商品を通じて、お客様と会話が弾むのが楽しい」と小室。心掛けているのは、“こちらから働きかける接客”という。

 アシスタントインストラクターは、新人養成や時にはフォロー研修の講師も務める。マニュアルによる机上研修のほか、添乗指導も行っている。指導の際、後輩たちに意識させているのは、お客様最優先の姿勢と笑顔での応対。「マニュアルに忠実な接客を心掛けるのはもちろんのこと、さらにパーサーに求められるのは、新幹線でのひとときを安心して快適に過ごしてもらえるよう、一人ひとりのお客様に向き合う気持ち」と語る。

 そんな小室は、時にはマニュアルに書かれていない、一歩先行くおもてなしの行動をとることもある。お客様が車内でチケットをなくされた時、あるいは、心身不安定なお客様が乗車された時、「今、自分なりに何かできることはないか」を考え、親身になって対応する。そんな小室の姿に接したお客様やそのご家族から、お礼の電話やメールが届くこともあるそうだ。「お褒めの言葉は、至らない点を反省し、サービス向上への努力を怠らないための励み」と、評価も真摯に受け止める。

 新幹線での経験を生かし、4月からは、岡山駅〜宇野駅間を走る観光列車「ラ・マル せとうち」にも乗務している小室。おもてなしのプロとしての誇りを胸に、お客様のかけがえのない旅の思い出に寄り添っていく。

ページトップに戻る
ローカルナビゲーションをとばしてフッターへ