鉄道に生きる

岡本 佳典(37) 和歌山支社 電気課

確かな技術とお客様視点で電気を安定供給する

「現状の設備を100点と考えてはいけない」という岡本。新しくできた駅を視察するなど情報収集に努め、より良い工事設計のための要素を図面に反映していく。

現場に学び、設備の設計に活かす

図面とモニター画面とを確認しながらの入力作業。デスクワークの際も、設備が完成した状態をイメージして行う。

 大阪と和歌山を結ぶ阪和線の一部、奈良西北部に繋がる和歌山線の五条〜和歌山駅間、および紀伊半島を海沿いに走る紀勢線(きのくに線)を管轄する和歌山支社。電気課に所属する岡本は、広い管内の鉄道電気設備の改良、またそのための工事の設計業務全般を担当する。入社は、1997(平成9)年。以来約20年にわたり、さまざまな配属先で鉄道設備を専門とする電気技術者としての経験を積んできた。

 「電力を電車運転に適した電圧に変える変電所設備をはじめ、行き先を案内する駅の発車標や照明など、電気が必要な設備全てに関わっています」と語る岡本。列車や駅に安定して電気を供給することによって、安全かつ快適な鉄道輸送の一翼を担っている。

 現在、管内の大小さまざまな設備改良を受け持ち、工事の設計および図面作成にあたる。設備改良の中には、老朽化した設備の保守・保全もあれば、駅ホームの新設工事もある。また、和歌山という地域性から、東南海・南海地震対策としての耐震補強、さらに台風、塩害に強い設備の導入にも取り組んでいるという。こうした設計図の作成はデスクワークが中心になるが、岡本は作成した図面を携え、必ず現地に出向く。工事の「出来栄え」を確認するためだ。「図面と実際の設備を照らし合わせ、これで正しいかどうか、現場から学び、次に活かすことが大切」と話す。

積み重ねた経験が実践の中で輝く

「疑問点があれば、その都度聞いて解決している」と後輩社員。岡本は、自身の経験をもとに、工事のポイントなどをきめ細かくアドバイスする。

 こうした岡本の姿勢は、現場での経験によるという。入社当初、変電所設備や電車線路設備を受け持つ現場に配属され、電車の運転に必要な電気をつくり、電線を繋ぐ“ものづくり”に携わっていた。岡本はもともと運転士を目指し、東京の鉄道専門学校で学んだそうだ。初めは、志望とは違う職場に戸惑っていたが、配属先でさまざまな設備を見る機会を得、実際に工事にも携わっていく中で、作ることの面白さを実感するようになった。次第に、「運転することが全てではない。電気という分野で、お客様に評価していただける設備を作っていこう」と、新たな目標が生まれたと振り返る。

 これらの実績が認められ、岡本は2012(平成24)年4月に竣工した、和歌山駅構内にある老朽化した変電所の設備取替事業のプロジェクトリーダーに抜擢される。古い変電所を閉鎖し、新しい変電所を稼働させて電気を供給するという一大事業。岡本は、切換のための電気配線や工事の設計、資材調達、作業員の配置など、プロジェクト全体の管理・運営にあたった。通常、設備工事は電車が運行していない夜間に行う。しかし、複数の電気回路を切り換えなくてはならないこの工事では、作業時間の短い夜間では同時に作業を進める必要があり、設備が故障するリスクがあった。そのため、営業時間中に駅に供給される電気を一時的に止めて作業を行うという、前代未聞の切換方法が取られた。「停電は1分間でしたが、照明が消え、エスカレータも止まります。お客様の流動が少ない昼の時間帯を選び、関係する駅施設との事前調整、使用できなくなる設備への係員の配置など万全の体制で臨み、問題なく遂行することができました」と感慨深げに語る。

技術というバトンを、次世代へ手渡す

図面を手に変電設備を確かめる。電気技術者の現場での地道な確認作業は、鉄道の安全の原点ともいえる。

 切換までの準備の期間も、岡本は5mにも及ぶ長い図面を持ち、駅や線路の周りを何度も歩き回ったそうだ。図面に描いたことを現地で1つずつ検証し、修正を加えていくためだ。自分の目で見て、調べ、考えたことを設計図に活かすことこそ、設計業務においては何より大切だという。「例えば、エレベータの照明一つを取っても、そこまでの導線、利用される方のニーズを現場で考え、最適な明るさやデザインを吟味する。技術はもちろんですが、私たちには電気をコーディネートする感性も必要です」。

 岡本は今、先輩たちが築いた技術を次世代へと継承する、パイプ役としての責務も担う。日々の業務で心掛けているのは、「設備への興味や愛着を育てること」。若手社員が現場を見る機会を持つように促し、鉄骨、鉄柱などの製作メーカーに出向く際には、若手を同行させる。現物に触れ、メカニズムまで理解することが興味や愛着、さらには現状の設備に満足しない向上心を育むと考えるからだ。若きリーダーは、技術継承にも活躍の場を広げている。

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