鉄道に生きる

細川 宗宜(西日本電気システム株式会社 姫路新幹線信号通信工事支所 支所長)

段取り重視で工事を完遂し、新幹線の安全輸送を守る

工事のための保守基地。ケーブルを運ぶ運搬車などの機力を駆使し工事が進む。

ケーブル総延長150kmに及ぶ壮大な工事

毎日行われる作業前ミーティングでは、施工の進捗や課題を共有。綿密なコミュニケーションが作業を円滑にする。

 今年3月に、全線開業から40年を迎える山陽新幹線。いま、従来の安全・安定輸送の要となる自動列車制御装置(ATC)を使いつつ、段階的に新しいATCに取り替えるという難易度の高い工事が進められている。

 列車制御に必要なデータはレールを介してやり取りされるため、ATCの更新作業はレールを沿うように行われる。深夜、営業運転の終了から始発が走るまでの限られた時間の中で、安全・安定輸送を担う重要なプロジェクトだ。

 「西明石〜岡山駅間のうち、約56kmの区間の設備工事を担当しています。工事は大きく分けてケーブル布設と、駅の機器室での新ATCの新設です。ケーブル総布設距離は約150km、ケーブル接続は約260カ所になり、布設・接続工事は大変でした」。そう語るのは、工事支所に集う現場監督たちを束ねる支所長の細川。
「レールに沿ってケーブルを敷く、繋ぐ。毎日同じことの繰り返しです。同じような作業を、これまで一年半にわたって続けてきました。繰り返しの作業だからこそ、緊張感や責任感を維持し続けることの難しさがそこにあります」。

 現場では監督以下、作業員までの全員が絶対無事故の意識を持って作業を行わなくてはならない。
「夜間、自分が現場に出ていない時は、作業員たちが怪我をしないか、時間内に作業を終えることができるか、やはり考えてしまいます」。現場監督を経て、これまで数多くの現場を見てきた若き支所長の言葉に、仕事の重圧と責任感がうかがえる。

段取り9割の意識で、仕事を完遂する

図面を繰り返しチェックし、施工内容を確実に把握する。自らCADを使って図面を作成することもある。

 2011(平成23)年から本格的に始まった山陽新幹線ATC更新工事は、細川が率いる西明石〜姫路駅間から工事がスタートし、現在は博多までの全区間で工事が施工されている。いわばパイオニアとして先陣を切っての工事だった。
「膨大な工事量を工期内に完遂する。そのためには、既存の工法の改善をはじめ、新工法の開発にも取り組む必要がありました。関係各所にも協力をお願いしながら現場検証を実施し、安全かつ効率的な工法を導入できたことも、工事を早期完遂できた大きな理由です」。昨年10月には姫路駅での新装置への切り換えが無事に完了。感慨に浸る間もなく、次は相生駅エリアの工事に着手していく。
「かつて先輩の監督から、仕事は段取り8割という薫陶を受けました。自分が支所長となってからは、段取りが9割という思いで仕事をしています。工事に着手する前の段階で、仕事の成否は決まっていると考えています」。

 例えば、経験の少ない若い現場監督でも、与えられた作業を確実に統制できるよう、工事着手前に全作業員を集めた安全ミーティングを開催し、具体的なリスクの洗い出しと対策、作業手順を全作業員で確認。末端まで統制が行き届く作業体制の構築にも取り組んできた。
「常に現場での施工基準と指揮命令系統をはっきりとさせておく。監督が仕事をしやすい環境をつくることも、自分の仕事です」。

 従来の工法の改善、新工法の導入をはじめ、安全で効率的な現場をつくる念入りな準備があってこそ、膨大な量を抱える工事も無事故でここまで進んできた。

明日の朝も新幹線を走らせるために

ケーブル布設専用車両によるケーブル牽引作業。重量3tを超える1,000mのケーブルを収容ダクト内に布設。

「新幹線の工事の現場には、“絶対に忘れ物があってはならない”という鉄則があります。ボルト一本の置き忘れでも、潜むリスクは大きいのです。だから1kmを施工したら、同じ1kmをライトで照らしながら歩いて現場を確認します」。工事の品質基準と安全意識の徹底、その要となるのは、やはり現場の監督だ。後進の若手監督の育成においても細川に妥協はない。

「監督となったからにはたとえ作業員が年上であっても、ベテランであっても、言うべきことははっきりと言わなければいけない。明日の朝も普段と変わらず新幹線を走らせる、その責任を監督が担っているんです」。これまで自らも若きリーダーとして監督たちを束ねてきた細川。後に続く若手たちにも、良き監督として活躍してほしいという思いがある。

「新しい制御装置に更新されることで、具体的にはブレーキ制御が、一段階でスムーズに行われるようになり、より正確な運行と乗り心地の向上が実現します。最終的に何万人、何百万人というお客様に関わるプロジェクトであることを、工事に従事する全員が共有できているはずです」。細川率いる全作業員たちの責任感と誇りは、次の工事区間へと確実に繋がっている。

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