大畑  敦夫(53) おおはた あつお 和歌山支社 田辺保線区 田辺保線管理室

熟練の視点をもとに、線路の今と未来を守る

鉄道に生きる

マクラギのボルトチェックと締め込みを若手に指導する。

現場に思いがあれば、小さな変化も気になる

 列車を安全かつ正確に運転するためには、線路が常に良好な状態に保守されていることが必要である。線路は、車両の走行に伴う衝撃や、風雨などの自然条件によって徐々に劣化していく。このように、さまざまな原因によって絶えずダメージを受けている線路を、常に良好な状態に整備し、列車運転の安全を確保するのが保線の目的である。この目的達成のために鉄道人生を捧げてきた職人がいる。

「自分たちが管理するエリアは自分の庭のようなものです。ゴミが落ちていたら拾うし、枝が伸びていたら切る。その庭を本当に愛していたら、また大事に思っていたら、小さな変化も気になるものです」。

 和歌山支社田辺保線区に勤務する大畑敦夫。昭和54(1979)年の入社以来、保線の仕事ひとすじに現場を歩んできた保線のエキスパートだ。大畑が所属する田辺保線管理室が担当するのは、紀勢本線印南[いなみ]駅から周参見[すさみ]駅までの約55キロメートル。山間部、みかん畑、そして太平洋に面した雄大な景色を臨む風光明媚な路線である。

「月に一回は、徒歩巡回で約55キロメートルの線路を歩きます。マクラギの状態、ボルトの緩みなど検査が必要な項目に沿って全て検査しますが、保線で最も重要な修繕はレール交換です。だからエリア内のレールの状態は全て把握しています」。

機材を運ぶ運搬車(モータカー)の始業前点検。エンジンオイルなど細部にわたってチェックする。

レールを見ると、何年か先の結果が見える

 レールは列車の安全運転を確保する上で最も重要な設備の一つ。検査によって状態を正確に把握し、限度に達する前に計画的に交換し、損傷事故を未然に防止するようにしなければならない。レール検査はレール探傷車、超音波探傷器、目視などによって行われている。

「目で見て分かる傷もあれば、外から見ても分からない内部の傷もあります。そのためにレール探傷車や、超音波を使った検査を行うわけですが、その検査データを精査する目も大事です。データをどう読むかということです」。  あくまで自分の経験からと前置きした上で大畑は言う。

「一概には言えないのが難しいところですが、担当している区間の通過トン数(列車の通行量・通過量)ですと、レールは敷設されてから10年前後に変化が起きやすい。だから全てのレールの製造された時期に注意を払います。またレールの損傷には法則のようなものがあって、レールの傷や検査データを見ると、何年か先の結果が見えます」。

 その法則とは、大畑が30年にわたってレールを見つめ続けてきた中で気付いたものであり、マニュアルだけでは説明のできない職人の見る目、勘所であるようだ。

「今は保線に関する多くの検査・修繕をグループ会社と行っているため、社員が直接現場に入る機会が減っています。私たちの世代は現場で学んできたので、自分が現場で得た知識や技術をどれだけ若手に継承することができるか。それが今の自分にとって最も大きな課題です」。

 保線は検査業務だけでなく、手持ちの工具を使ってその場で修繕工事も行う。見る目、工事の技術など、経験値が求められる仕事であるがゆえに、技術継承を行うためにも若手と現場で過ごす時間は貴重だ。

検査・修繕に必要な材料や工具の在庫を確認。必要なものが欠品しないよう常に注意を払う。

対話と姿勢を通して若手を育成

 大畑は、若手社員が現場を見る目を育むために、徒歩巡回でレールの見方、考え方、直し方を可能な限り対話を通して伝えている。言葉だけで伝わりにくい場合は、実際にマクラギに体重をかけてマクラギのガタつきを見せるなど、実演までやってみせる。

「作業の安全についても、マニュアルを絶対視するのではなく、こうした方がより安全に作業ができるということがあればそのつど若手に進言しています」。大畑にとっての教育現場は、文字通り現場にあるのだ。

「とにかく現場を好きになってほしい。現場を好きになれば、興味も出るし、なぜこうするのか? なぜこうなっているのか? そんななぜを考える重要性にも気付きます」。

 レール交換を行った後の線路は、車内の静かさ、周辺の騒音レベルがまったく違う。そんな改善された現場を見に行くのが何よりの楽しみと大畑は言う。

「自分が仕事をすることで、何かが、少しでも良くなったらうれしい。仕事で使う器具や道具ももっと安全に、簡単に、便利にできないか、空き時間があればいつも考えています」。

 そんな大畑に対し若手社員は、「いつも自発的に行動される方。その姿勢に触発されます」と。対話だけでなく、その背中からも若手たちは保線とは何かを学んでいる。

探傷検査によって作成されたレールのデータを若手と精査。再検査が必要か否かの判断を行う。

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