友田  康広(37) ともだ やすひろ 神戸支社 明石電車区 指導操縦者

使命感と誇りをもとに、運転士を育成する

鉄道に生きる

実地訓練では、見習い運転士と同乗し、同じ目線で運転を指導。

時代が変わっても、運転士の心構えは変わらない

 「運転士は、その列車に一人しかいません。常に判断が迫られる、責任のある仕事です」。これまで指導操縦者として、10年にわたり見習い運転士を育成してきた友田は、厳しい表情でそう語り始めた。

「私と見習い運転士が一緒に乗務するのは約4カ月間、437時間です。彼らが国家試験に合格して運転士になれば、私はもう乗務中に横にいてアドバイスすることはできません。自分で判断し行動するしかない。だから私は、技能も教え、それとともに運転士の心構えを彼らに伝えます。心構えとは何か。それは自分で考え、自分の答えを持つようにするということです」。

 もちろん、無線をはじめ情報伝達システムの技術が進んだ現在、運転士は指令所や駅と情報のやりとりを行っている。トラブル発生時には、指令所の指示を受け、判断を仰ぐことができる。その上で友田が運転士は自分で考え、自分で答えを出すことにこだわるのはなぜか?

「私を育ててくれた先輩の運転士たちは、運転士という仕事に誇りを持っていました。運転士は運転の技術、車両に対する知識、さらに運転の規則を誰よりも知っていなければいけないという責任感と自負がありました。時代やシステムが変わっても、仕事に対する取り組みや姿勢は、変わるものではないと思います」。

床下の機器類に異常はないかなど、乗務前に30分かけて点検を行う。

運転士は、お客様の一番近くで仕事をしている

 友田の入社は1994(平成6)年。駅での業務を経て、車掌、運転士へとキャリアを積み、2000(平成12)年からは指導操縦者として、運転士の育成に携わっている。

「鉄道の安全を確保する上で、人間はミスをするものであり、ヒューマンエラーは起こり得るということを前提にリスク管理が徹底され、運転を支援する装置類やATS(自動列車停止装置)など、運転士を支えるハード対策が整っています。しかし、それは補佐をしてくれるものであり、運転の主体ではありません。頼るべきは、やはり自分自身なのです」。

 運転士を支援するハードがいかに進化しようとも、列車の運転の主役は運転士であると友田は言う。

「車内のお客様を守るのは私たち運転士と車掌なのです。例えば列車のダイヤが大きく乱れるような時でも、お客様に安心していただくためにはどうすべきか、不安を取り除くためには何ができるかを常に自問自答し、車掌と協力しています」。

 車掌と同様に運転士はお客様の一番近くで仕事をしている。だからこそお客様の立場や、お客様の目線で判断ができるし、判断をしなくてはいけない。そのために、運転技術において、また知識においても自分を常に高め続ける。それが運転士であり、プロの心構えなのだと言う。

点呼の前に掲示板を念入りにチェック。乗務の前に確実に注意事項を把握しておく。

見習いから一人前へ。継承される師弟の絆

「見習い運転士が口を揃えて言うのは、ブレーキ扱いの難しさです。 正確に止める技術はもちろんですが、お客様に快適に乗車していただくために、停車したことを感じさせないぐらいスムーズに停車させたいと考えています。試験に合格するだけでなく、運転士を志すならば、そこまで技術を高めて当たり前です」。

 友田は見習い運転士の緊張をほぐし、温かく背中を押すような指導を心掛けている。

「見習い期間であれば、ミスしそうな時に私がフォローできます。かつて先輩が私に経験をたくさん積ませてくれたように、今は私が後輩たちの責任を引き受けるつもりです」。見習い運転士は自分を指導する運転士を“親方”と呼び、運転士になってからも、その師弟の絆は固い。

「指導期間は厳しいことも言いますが、彼らが一人前になって乗務するようになった時、そこにいない私の存在を感じてくれたら、こんなにうれしいことはないです」。

乗務点呼は、管理者から注意事項などが伝達されると同時に、気持ちを切り替え、安全運行を宣言する場となる。

 今日も若い運転士が一人立ちしていく。そこには、見えない親方の眼差しが注がれている。

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