Blue Signal
January 2010 vol.128 
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鉄道に生きる【河村 清春[かわむら きよはる](55) 京都支社 京都土木技術センター 技術主任】
橋りょうやトンネルなど、鉄道に欠かせない
土木構造物を検査する匠を訪ねた。
診る視線と視点を養い、土木構造物の安全を守る
構造物の、声なき声に耳を傾ける
 橋りょう、トンネル、ホームなど、土木構造物の保守管理を行っている京都土木技術センター。京都をはじめ、滋賀、大阪の3府県にわたる京都支社管内の土木構造物を担当している。その数、橋りょうは約1,200、高架は約150、トンネルは約60を超える。中には、明治時代に造られた橋りょうやトンネルなど、歴史的、文化的な価値を有するものも少なくない。これら新旧にわたって数多く存在する土木構造物を、定期的に見回り、もし異常の兆候があれば補修の計画を立てる。いわば構造物の定期検診を行うドクターのような存在である。河村自身も検査という業務を次のように例える。

「人間が必要以上に脂肪をためすぎてしまうと健康を損なってしまうように、盛土も不要な土砂が堆積してしまうと、不安定になって崩れたりします。鉄桁[てつけた]にしてもシュー(付け根)付近は、人間の膝や足首に相当し、やはりここに変状が発生しやすいんです。列車荷重を支えているところであり、もし亀裂などが発生すれば、鉄桁は『痛い』とは言いませんが、弱っていきます」。物言わぬ土木構造物の声なき声を聞き、必要に応じて手当てをする。河村はこの仕事に30年近く携わってきた。

 
“見る”と“診る”そこに検査の極意
 検査は基本的に目視で行われる。見る箇所によってはハンマーで検査部を叩き、その響きで状態を知る打音検査も行う。もしそこで異常の疑いがあれば、さらなる精密検査が施される。初診の見落としが、後の大病につながりかねないだけに、検査では決して気を抜くことができない。当然のことながら橋りょうやトンネルは雑草生い茂る林のような場所にもあれば、川の中、山の中、都心にも存在する。そのため環境に応じた検査の“勘どころ”もあると河村はいう。「“勘どころ”というのは、やはり現場で数を見ないと身につきません。目視といっても何を見るか、何に着眼するかが重要で、たとえば構造物の一部に亀裂があった場合、そこだけに着目し手当てをするのではなく、なぜそこに亀裂が生じたか、その原因まで知ることができるかどうか、そこが重要です」。

 良医が患者の生活習慣まで加味して治療にあたるように、構造物の置かれた環境、生い立ちまで考える。“見る”と“診る”その違いこそが河村が行う検査の真骨頂だ。
視点が変われば、着眼点も変わる
 検査の“勘どころ”。それはまた場数を踏むだけで習得できるものではない。「お客様の視点で仕事をすることも不可欠です。例えばお客様が眠っている時、ガタンと揺れたらお客様は目を覚ましてしまうでしょう。そのように考えれば、橋脚まわりを見る時も、列車が通過した時にバタツキはないかとか、着眼点もおのずと変わってきます。お客様にご安心いただき、列車を安全に走らせる、それが私の使命であり、後に続く若手たちにも伝えたいことです」。
 その言葉通り、京都土木技術センターには、「京土[きょうど]塾」と名付けられた独自の勉強会があり、ここで河村をはじめ熟練技術者が蓄積した検査のノウハウ、ポイントを若手社員たちに伝授し、共有しようとしている。ある若手社員は「河村さんに聞けば何でも分かる。河村さんには何でも聞ける」と言う。構造物の声なき声に耳を傾けてきた河村は今、現場をともにする若手たちの声にも全魂を込めて応えている。次の“診る視線”を育むために。
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シューと呼ばれる鉄桁の受け台をチェック。打音の違いによって、正常か異常かを聞き分ける。
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特に負荷がかかりやすい場所は念入りに点検する。許容範囲の見極めも経験がモノを言う。
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それぞれの構造物に取り付られている銘板(ネームプレート)。この銘板を見れば、製造年月が分かり、図面を探し出すことができる。
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月2回のペースで行われる「京土塾」。時には、教材として河村が収集した文献なども使われる。
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