Blue Signal
January 2009 vol.122 
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児島駅 駅の風景【児島駅】
瀬戸内海の絶景とジーンズの街
児島は、岡山と四国を結ぶ瀬戸大橋線の要所、 瀬戸内海の美しい風景と出会える街。 江戸時代、製塩業と綿製品で 全国に名を馳せた児島は今日では世界に誇る ジーンズの街としても知られている。
「島一つ土産に欲しい」と詠われた風景
 鷲羽山は児島半島の南端にあって瀬戸内海に突き出ている。山上の展望台に立てば、瀬戸内海が眼下に広がり、銀色に輝く海に点々と無数の島々が浮かぶ。この多島美の風景が児島のシンボルだ。郷土の歌人、難波天童が「島一つ 土産に欲しい 鷲羽山」と詠んだ島なみの美しさは日本の自然風景を代表する一つでもある。 

 それらの島々を瀬戸大橋がつないで、本州と四国を結んでいる。1988(昭和63)年に完成した瀬戸大橋は2層構造で下層部を本四備讃線(瀬戸大橋線)の列車が走る。児島駅は瀬戸大橋線の本州側の起・終点駅として児島の旧市街地の沖の野封lと呼ばれる塩田跡地に設けられた。駅は海にほど近く、駅周辺は商業地として現在も開発が進んでいる。

 塩田は、児島の繁栄を語る上で欠かせない特産だ。俗に「児島三白[こじまさんぱく]」という児島の代表的な物産を表した表現があるが、その一は「塩」、そして「綿」と「いかなご」の三つの白ものを指していて、いずれも農耕地の少ない児島の地勢と深く関わっているのだ。児島半島も実は中世の頃までは島だったのである。『古事記』には「吉備の兒島」と記され、本土と児島の間は「吉備の穴海」と呼ばれていた。

 しかし長い年月のうちに河川が運ぶ土砂で 次第に浅瀬となり、江戸時代に入ると干拓が盛んに行われ、ついには陸続きになったという。各所で新田が拓かれ沖へ沖へと土地は増えたが、塩分を含んだ土地は稲作には不向きであった。そうして始められたのが製塩業であり、塩が児島に大きな繁栄をもたらした。旧市街の一角に残る豪壮な野負ニ旧宅は、塩田事業で巨富の財を成した名残である。
 
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鷲羽山より瀬戸内海を望む。眼下には多島美と称される瀬戸内の景観が広がる。
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児島駅のすぐ東にある観光港に建つ旧野 浜灯明台。塩買船や北前船など多くの船の往来があった。
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イメージ 現在の児島はアパレル産業の街として、特に児島産ジーンズは世界的な知名度を誇る。
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野負ニ旧宅は製塩業で財を築き、「塩田王」とも呼ばれた野封錐カ衛門の邸宅。約3000坪もある敷地内には豪壮な屋敷や庭園、立ち並ぶ土蔵群がほぼ創建当時のまま保存されている。
 
綿織物の伝統が生んだ、世界の児島ジーンズ
 児島は全国でも屈指のアパレル産業の街である。綿と機織りは江戸時代から脈々と続く伝統の地場産業だ。旧市街地を歩くと、生地や染工場や学生服や事務服メーカー、有名なジーンズメーカーのブランドの看板をあちこちで見かける。学生服・事務服の製造で全国一の児島は、国産ジーンズの発祥地としても知られている。

 これも干拓と深い関わりがある。江戸時代、稲作には向かない干拓地の新田に塩分に強い綿を栽培したのが起源だ。児島の南、鷲羽山麓の下津井は北前船の寄港地で、北海道から運んだ鰊粕[にしんかす]を綿栽培の肥料とし、帰りの船には綿製品や名産の塩を積み込み、北前船のどの寄港地でも歓迎されたという。なかでも児島の木綿を有名にしたのは、由加山大権現の土産用に売られていた真田紐。それが発展して、明治、大正を通じ帯地や袴、とりわけ足袋は全国一の生産地として名を馳せた。しかし、その後のファッションの洋装化とともに低迷しはじめる。

 この難局を打開したのが、足袋の木綿裁断や縫製技術を応用してつくった学生服だった。最盛期には全国シェアの9割、今日でも7割を占める。そうして、引き継がれてきた伝統の技術によって1964(昭和39)年に国産ジーンズが誕生する。誕生からすでに40余年を経た今では児島産のジーンズは世界的なブランドだ。素材、染め、織、縫製・加工…を職人の技が丹念につくるオリジナルのオーダージーンズは世界中から注文が寄せられるという。

 ジーンズ工房の一つを訪ねると、お客さんが採寸中だった。東京からの旅行の途中、ジーンズを誂えに児島に立ち寄ったという。男女、年齢の区別はなく、わざわざジーンズを求めに訪れる人が多い児島の街には、伝統が現在にしっかりと生きている。
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イメージ 鷲羽山の麓、下津井の町は北前船の寄港地として江戸時代は大いに賑わった。ニシン蔵が並ぶ風情ある町並みは現在も残り、当時の活況を今に伝えている。
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由加山にある由加神社本宮は厄よけの総本山として古くから多くの人が参拝してきた。江戸時代、参道で土産物として売られた真田紐が評判を呼び、綿栽培や機織りの発展につながった。
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児島ジーンズのブランドの一つ「ベティスミス」では、こだわりのオーダージーンズも作っている。開発部の柏卓美さん(写真左)は「素材、染め、加工まですべて地元主義を徹底しているのが児島ジーンズの特徴です。伝統の技術を受け継ぎ、それぞれの工房が持ち味を競いあって児島ジーンズの振興を図っています」と話す。
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児島駅から歩いて10分ほどの場所にある倉敷市瀬戸大橋架橋記念館は、橋をテーマにした珍しい博物館。瀬戸大橋をはじめ、世界の橋の模型などが展示されている。
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