Blue Signal
January 2007 vol.110 
特集
駅の風景
出会いの旅
うたびとの歳時記
鉄道に生きる
花に会う緑を巡る
鉄道に生きる【中曽 享一[なかそ きょういち](44)後藤総合車両所 組立科 車両管理係】
非電化区間の運行になくてはならない
機関車や気動車の動力源となるのがディーゼルエンジン。
このエンジンの検査、修繕に情熱を注ぐプロを訪ねた。
エンジンの再生にかけるこの熱き思い
気動車エンジンのほぼすべてを扱う
鳥取県の米子駅から境港駅までの17.9kmの路線である境線。非電化区間であり、ディーゼルエンジンの気動車が活躍しているが、米子駅から2.2kmの後藤駅までは直流電化され、回送電車が往き来する。気動車や機関車、電車の検査を行う後藤総合車両所があるからだ。そしてここでは、JR西日本のほぼすべての気動車のエンジンの検査も行っている。

中曽享一は、後藤総合車両所で取り扱う約600両、700基のエンジンの3分の2に相当するSA6D型の分解から組み立てまでを担当する、エンジンのエキスパート。富山や広島を走る気動車も、エンジンの検査は中曽の手によるものだ。

「富山の車両なら、要部検査や全般検査の時に、金沢の総合車両所からエンジンだけがこちらに運ばれます。車両そのものを見たことはなくても、西日本のローカル線は私が検査したエンジンでお客様を運んでいるわけです。感慨深いとともに、責任も感じますね」と中曽。その顔にはエンジンへの愛情が浮かぶ。
細かな部品まで分解し徹底検査
車両の検査は、法令等で一定期間ごとに行うことが義務づけられている。検査の種類は、車両の状態を外部から点検する仕業検査、車両の各機能や作用を点検する交番検査、車両の主要部分を取り外して行う要部検査、車両の機器や装置全般を取り外し解体して行う全般検査と、大きく4段階に分けられている。気動車の場合、仕業検査は3〜6日、交番検査は90日ごとにそれぞれの地域の運転区所・車両所で行われ、4年(または車種により定められた走行キロ)ごとに行われる要部検査と、8年ごとの全般検査は、工場・車両所で行われる。そのうち、エンジンの全般検査・要部検査はほぼすべて後藤総合車両所が担当する。

「いわばエンジンのオーバーホールですね。全般検査では、ピストンやクランク軸などもすべて取り外します。長年エンジンを見ていますと、運ばれてきたエンジンを外から見ただけで、どんな様子なのかがわかるようになります。同じ形式のエンジンでも、走っている地域によって状態が異なりますから面白いですね」と話す中曽にとっては、手がけるエンジンのすべてが、まるで自分の子どものようなものなのだろう。
どんな小さな不具合も見逃さない
電車の動力源であるモーターが電気で回転するのと異なり、ディーゼルエンジンは、燃料の軽油を爆発させてピストンを動かすため、燃料はもちろん、冷却水や潤滑油などが必要となり、それらのすべてがうまく機能することによって走り続けることができる。

「エンジンというのは、きちんと検査して組み立てても、正しく使ってもらわないと100%の性能を発揮することができません。そのため、日頃から運転区所との情報交換を密にすることも大切です。運転時に何か気になることがあれば、どんな小さなことであっても私たちに連絡してもらう。時には現場に飛んで行って点検することもあります。そうやっていろんな地域の、いろんな条件のなかで使われるエンジンが、どれも同じ性能を有するようにするのです」と中曽。お客様を安全に運ぶための動力源を担当しているという誇りと喜びを、次の世代にきちんと伝えるのが夢であり役割なのだという。
イメージ
分解された部品の点検。メインアイドルギアの測定は、100分の1mm単位で行う。
イメージ
細かな部品まで分解し、徹底した検査を終えたエンジンは再び組み立てられる。
このページのトップへ
イメージ
検査を終えたSA6Dエンジン部品を組み立てる。
イメージ
試験場では組み立てが終わったエンジンの性能テストを行う。
イメージ
テストが終わったエンジンはきれいに塗装を施され、車両に組み込まれる。
このページのトップへ