Blue Signal
May 2004 vol.95 
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鉄道に生きる【佐戸 通孝[さど みちたか](54)山口鉄道部 車両管理室管理係】
汽笛を鳴らし煙を吐いて、懐かしのSLが走る。
多くのファンに迎えられたSLの復活には、
その運行を陰で支える者たちの物語がある。
SL「やまぐち」号を守る整備士
SL「やまぐち」号復活25周年
2004(平成16)年の今年は、昭和54年8月1日、山口線にSL(蒸気機関車)がよみがえって25周年という記念の年にあたる。奇しくもイギリスでSLが誕生して200年という年とも重なった。

現在、JR西日本管内では山口線の新山口〜津和野間で土・日・祝日(12月と2月、1月と3月の一部を除く)および春休み・夏休み期間に1日1往復SL「やまぐち」号を運行している。大正風、明治風、昭和風、欧風、そして展望車の5両のレトロな客車を引っ張るのは、「貴婦人」と呼ばれるC57と、「ポニー」と呼ばれるC56だ。7月にはC57-1号機とC56-160号機の重連運転も見られ、ファンの心を捉えてはなさない。
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SLが好きだからこの仕事が誇り
このSL「やまぐち」号を運行するに際しては、じつに多くの社員が携わっている。機関士や車掌、駅員はもちろんのこと、“縁の下の力持ち”として運行を支える社員も数多く存在する。

その中のひとりが、山口鉄道部の佐戸通孝だ。管理係として15年のキャリアを持つ佐戸は、整備士としてのキャリアを含めると、そのほとんどをSLと共に歩いてきた。

「黒く重厚な機関車が煙を吐いて走る姿は、やっぱりカッコイイですよ」と目を細める佐戸。何百人もの乗客を乗せ、安全かつ正確に走行しなければいけないSLの検査修繕をするにあたっては、その責任感で胃が痛むときもあるというが、根底には「SLが好き」という熱い思いがある。

「SLには、もう代わりの車両が存在しないですからね。大切に手入れをしながら守っていかなければなりません」と語るように、SLを走らせながら次の時代に残すという課題がある。佐戸ら技術者の厳しい目と愛情があってこそ、60歳を過ぎた機関車が現役で走行できる。
後継者育成がこれからの目標
機関庫で出発を待つSL「やまぐち」号は、細部まで厳しく定められた検査基準にしたがって整備や検査が行われる。佐戸は、検査の際に小さなハンマーを手にするが、これぞまさに職人の技。車体の各部品を軽く叩いてその音をチェックするのだが、音で部品の疲労状態がわかるという。彼の耳は、ほんのわずかな響きの違いも聞き逃さない。

「検査で大切なことは、トラブルの予兆を見逃さないことです。機関士とのコミュニケーションも大事です。“ここがちょっと気になるから、注意してみておいてくれ”とか、そんな情報交換も欠かせません。後悔をしない仕事をすること。これが私のポリシーです」と佐戸は語る。

彼は現在、彼の後継者となる2人の後輩の教育も担当している。「後継者を育てることが、これからの私の大きな役割」と言い切る佐戸は、先輩から受け継いだ「SL点検のしおり」という手づくりの冊子をいつも胸ポケットに携帯している。すり切れ、数多くの書き込みによってボロボロになった冊子を、彼は「私の宝物」と言う。これを自分だけの宝物として終えるのではなく、次に継承することが彼の使命。佐戸が指導する若い後継者の手にする冊子が、同じようにすり切れ、ボロボロになった時、答えが分かる。

「SLが帰って来た時の汽笛の音が聞こえると、“無事帰って来たな”ってホッとするんですよ」と語る佐戸。乗客の安全を陰で守る男の、唯一心の緩む瞬間かもしれない。
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機関車の外部から、すべての部品をチェックする。
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火室に石炭を入れ、燃焼具合を確認する。ボイラの水を沸騰させ、その蒸気をシリンダーに送ることで動くSL。その点検は多岐にわたる。
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乗客の安全に関わる大切な仕事。厳しい目が光る。
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手づくりの「SL点検のしおり」。検査の手順が細かく書き込まれている。
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黒煙をはきながらひた走るC57-1号機「やまぐち」号の雄姿。
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