沿線点描【北陸本線】福井駅(福井県)から金沢駅(石川県)

夕陽に映える白山を車窓に、冬の北陸路を往く。

北陸本線の福井駅から金沢駅まで77km。 雄大な白山を車窓の友に、 冬の北陸ならではの味覚と湯どころ巡り…。 旅の楽しみはほかにも盛りだくさん。 そんな北陸路を各駅停車の列車で、 途中下車をしながらゆっくりと旅をした。

金沢駅の東広場には、加賀の伝統芸能で使用される鼓をイメージした「鼓門」と、雨傘をイメージしたガラスのドーム「もてなしドーム」がある。

冬の味覚の王者、越前ガニで
賑わう北陸の名湯

丸岡城は戦国時代の武将・柴田勝家の甥、柴田勝豊が北ノ庄城の支城として築城した。

福井駅名物の「越前かにめし」弁当。写真提供 : 福井県観光連盟

 冬の北陸路といえば、やはりカニと温泉。さっそく福井駅の名物、「越前かにめし」弁当を買って金沢行きの列車に乗り込んだ。

 2両編成の普通列車は九頭竜川の鉄橋を渡り、福井平野の伸びやかな田園地帯を北へ向かうと、右手に小高い丘が見えてくる。丘の上には、現存する最古の天守閣と言われる安土桃山様式の丸岡城がある。

するとまもなく芦原温泉駅に到着。駅前からバスで15分程度で温泉街に着く。街をそぞろ歩けば、黒板塀の旅館やホテルが建ち並び、ところどころに温泉が湧き出している。

 冬場の週末ともなると大勢の温泉客でどこも盛況だ。お目当ては「越前ガニ」。体長は大きなもので70cm以上もあり、地元では「雄をズワイ、雌をセイコ」と呼んでいる。この人気の越前ガニが水揚げされるのが三国港。ズワイの漁期は11月から翌年3月まで、セイコは1月まで。この期間、三国港は特別に活気づく。

 九頭竜川の河口の三国湊は、江戸時代に北前船交易で大いに栄えた。港近くの町並みは往時を偲ぶ古い商家が残る歴史的な景観で、ゆっくり町歩きするのにいい。

 そこから海岸沿いの遊歩道を辿ると名勝・東尋坊。断崖に打ちつける日本海の荒波は豪快で迫力がある。不意に青空が雨模様に変わった。雨の中を急いで芦原温泉駅に戻る。北陸の冬の天気は猫の目のようだと言われるが、大聖寺駅に着くと空はまた晴れ上がっていた。

 大聖寺は加賀藩3代藩主の三男、前田利治の城下町で九谷焼発祥の地でもある。領内の九谷村で窯が築かれた江戸時代初期の約50年間でこの窯は突然、閉じられてしまう。その理由は今もって謎とされている。この初期に焼かれたものは「古九谷[こくたに]」と呼ばれ高く評価される。後に再興されたものを「再興九谷」と言う。作風は大胆にして奔放。古九谷の杜公園内にある「石川県九谷焼美術館」では貴重な古九谷の銘品の数々を見ることができる。

 大聖寺はまた『日本百名山』の著者、登山家でもあった深田久弥[ふかだきゅうや]の故郷でもある。町の通りに立つと、空模様の運が良ければ遠くにうっすらと雪化粧した白山が見える。その姿は久弥がエッセーに度々描いているように、優美の一語に尽きる。

芦原温泉の街を歩くと「あわらの湯」の立て札とともに源泉が沸き出している。「地下90mからの60℃の源泉で、塩分を少し含みナトリウム、カルシウムなどを含み、とても健康によい」とある。

三国湊の昔の写真や商店の当時の広告を展示する「三国湊町家館」。 北前船の中継基地として栄えた町には、廻船問屋や商家が軒を並べていた。

大聖寺にある石川県九谷焼美術館には貴重な古九谷の銘品が常設展示されている。写真(左)の平鉢は「古九谷の青手土坡ニ牡丹図大平鉢」。 写真提供 : 石川県九谷焼美術館

夕映えの白山、加賀の湯、
艶やかな冬の金沢に浸る

 加賀温泉駅は“加賀温泉郷”を巡る起点駅。加賀温泉郷とは山代温泉、山中温泉、片山津温泉、粟津温泉の総称で、どこも北陸を代表する名湯だ。駅前からバスで山中温泉に向かった。

 山中温泉は、山代温泉から山中に分け入った大聖寺川の上流、鶴仙渓に沿って旅館が並ぶ山の中の温泉で、しっとりとした温泉情緒がある。1,300年以上の歴史を誇る古湯で芭蕉が逗留したことでも知られる。四季を通じて味わい深いが、凛とした冷気が漂う冬の風景も極上である。黒谷橋からこおろぎ橋まで、約1・2kmつづく鶴仙渓の散策路を辿ると、錦繍とは趣きを変え、水墨画のように厳かな冬景色である。

 散策で冷えた身体を、外湯の総湯「菊の湯」にゆったり浸って解きほぐすと、身体の芯まで温まる。芭蕉が「日本三名湯」の一つとして賞賛した湯で、湯上がりに温泉街をぶらりと「山中漆器」でも見て歩く。もちろん、山の温泉とはいえ、夜のもてなしはやっぱり豪華なカニだ。霊峰白山を開山した泰澄[たいちょう]ゆかりの名刹、那谷寺[なたでら]も遠くない。

芭蕉も賞賛した山中温泉の総湯「菊の湯(おとこ湯)」。奈良時代の高僧・行基が発見して以来、一度も浴場の場所が変わってない。 写真提供:石川県観光連盟

山中温泉総湯「菊の湯(おとこ湯)」の向いにある「山中座」の「菊の湯(おんな湯)」。ロビーの柱や壁は漆塗りで、天井には豪華な蒔絵が施された山中漆器の技の粋を集めた建物。 写真提供:山中座

小松市にある泰澄ゆかりの那谷寺。広い境内には奇岩遊仙境を中心に、名勝指定の庭園などがあり、四季折々の美しい風景を楽しめる。

 絶景と言えば、柴山潟の畔の片山津温泉から仰ぐ白山連峰だ。厳冬期、白銀の白山が夕陽に染まると神々しいまでに美しさが際立つ。そして加賀温泉駅から小松駅へ。日本海に臨む砂浜には、能や歌舞伎で有名な義経、弁慶の「安宅の関」がある。列車が加賀平野を潤す手取川の鉄橋を渡ると、金沢駅はもう間近である。突然、また雨が降り出した。「弁当忘れても、傘忘れるな」の格言は本当のようだ。

小松駅から日本海に抜けた松林の中にある「安宅の関跡」。関跡の石標の横には、「勧進帳」で知られる弁慶、義経、関守冨樫の像が建つ。

手取川の鉄橋を渡るサンダーバード。(小舞子駅から美川駅)

 金沢の冬の風物詩といえば、雪吊りを施した兼六園の風景。そして近江町市場を訪ねると、ズワイガニをはじめ、ブリやアンコウ、甘エビ、タラなど冬の食卓を彩る魚介や加賀野菜が店頭に並ぶ。加賀料理の定番は治部煮[じぶに]に、かぶら寿司。町には、可憐な和菓子に見事な手工芸品の数々。ウインドーに飾られた加賀手まりの華やかさは、金沢のイメージそのものに映る。冬の味覚と温泉、そして城下町の伝統の文化と、とても語り尽くせない魅力が北陸路にはあった。

日本三名園の一つにあげられ、国の特別名勝である兼六園。雪から樹木を守る雪吊りは冬の風物詩。 写真提供 : 金沢市

「金沢の台所」近江町市場で鮮魚を販売する大松水産の榎本さん(左)と荒木さん(右)。「金沢の冬の海鮮といえば、カニはもちろん、アンコウ、タラだよ」と話す。

糸を巻き固めたもので芯を作るという昔ながらの製法で作られる華やかな加賀手まり。撮影協力 : 金沢・クラフト広坂

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